剥き出しの熱 年の瀬、12月31日。 年末で研究室の学生も実家に帰省するため、普段よりも自由に使える実験室で私は今日も研究に励んでいた。 これまで限られた実験機器の有効活用のために夜中に実験を行い早朝に帰宅することも多かったが、長期休みは外部の生活時間と同じリズムで実験が行えるうれしい時期である。 そう、それはすべて沖王太郎という人物に原因がある。 同じアパートに住む沖との毎朝挨拶だけをする関係が、今の互いの部屋を行き来してどっちに住んでいるのか定まっていないような関係に変化したのは今年の春のことだ。 論文提出のために徹夜を繰り返して熱を出し、ふらふらと帰宅している最中アパートの目の前で倒れたところを拾われ介抱されたのが、互いを正確に認識した最初の出来事。 その日以降、熱中すると食事を抜く傾向にある私に毎食ご飯を作ってくれたり、ちょっとした雑用を手伝ってくれたりと、私の身の回りを色々と気遣ってくれるようになったのは良いとする。 しかし定期的に小姑のように小煩いのと、抵抗すると実力行使に出るところが問題なのだ。 (昨日も散々だった……お陰で眠いし腰辛いしで実験早めに切り上げなきゃいけなくなったし) シャワーを浴びながら昨日の情事の跡をちらほら発見し、大きくため息をつく。 実験に関してはある程度区切りがつくところまでは出来たしそもそも別に急ぎの実験ではないから支障はないのだが、そのことも織り込み済みであろうことが更に悔しさを煽る。 なんとなく悔しくなってきて私はさっさとシャワーを終わらせて適当に服を着てソファに座る沖をソファにしてどっかりと座り込んだ。 沖は私の行動に少し驚いたようだけれど、自然に私を支えるように腕を回してきてまたなんとなく負けたような気持ちになる。 「さんってば、髪」 肩にタオルを引っ掛けただけで出てきた私に、沖は文句を言いながらもどこか楽しそうに私の髪を乾かし始める。 その優しい手つきになんとなく眠気を誘われながらも、ついたままになっている年末バラエティに目を向けた。 ここで寝てしまうのもまた大いに負けた気持ちになるので嫌だ。 首元から湿ったタオルが取り払われ、髪が乾いたのかと感じるとともに僅かな肌寒さを感じる。 しかし沖は乾いただろうに変わらず私の髪を触って何かを楽しんでいるようだった。時折気まぐれに頭を撫でられるが、その度に心の奥がぎゅっとうれしくなる。悔しい。 「……今年ももう終わりだね」 バラエティが徐々にカウントダウンモードを迎えて準備している。 すると髪をいじり倒すのも飽きたのか沖がべったりと背中に張り付いてきた。 湿った襟元が少し肌寒かった所に感じる沖の体温は暖かく、それに抗わずに私は体重を背中に預ける。 沖は僅かに私の身体に回した腕に力を込めた。 彼の吐息が首筋にぶつかり、ほんの少し背中をざわつかせる。 「さん、ねえ……このまま」 吐息だけで沖が喋る。その吐息にまた私の背筋はざわついて、僅かに身体が震えた。 その反応に嬉しそうな笑みを漏らした沖に、私は沖の腕を引っ張って強引に身体を横にずらし、そのままキスを落とす。 押し付けるだけのそれはただの起爆剤でしか無く、沖が私を引き倒してから再度彼の首に腕を回して引き寄せ、今度はしっかりと口付ける。 角度を変えて何度か繰り返してからそっと表情を窺い見ると、目の前の沖の瞳は欲を映して私を見つめていた。 思わず唇が笑みの形を取る。 「そんなにしがみ付かれたら動けないよ…?」 「沖ならなんだって気持ちイイから」 「 それが見たいからやってるんだよ、なんていうことは口にしない。 相変わらず笑みを浮かべた唇に、沖は少し強引なキスを重ねてくる。 沖の目に浮かんでいる欲は彼の欲であり、私の欲でもある。 私を追い詰めて泣かせるたびに、彼自身も私に追い詰められて剥き出しの自分自身を晒していくのだ。 装いなんて捨てて、理性なんて捨てて、生身の状態でぶつかってくる沖がまだこういう状態でしか見れないというのも面白く無い話だが、それは今後の私の頑張り次第だろう。 「好きにしてよ……沖くん?」 「ああもう…!」 最後にもう一度煽ってやれば、沖は私の身体を抱き上げてそのまま大股で私のベッドルームへと向かい始めた。 私は彼の首に腕を回して、その逞しい首筋にそっと唇を落とす。 今夜もきっと、夜は長い。 |