※注意※


番外編パラレル、「もしもがケルマイベントに遭遇していれば」のお話です。
どういう経緯の上でそういうことになったのかに関してはスルーでお願いします…。
やたら二人とも素が出てますが、そこのところもご愛嬌で。
ミニスさんともさほど険悪な中ではありません。




















番外: ゼラムに吹くピンクい風




















導きの庭園は、殺伐とした戦場になっていた。
中央の低い場所を陣取り高笑いを上げているのは金の派閥の召喚師、ケルマ・ウォーデン。
彼女の配下らしい、金ぴか鎧の兵士とテテノワールがケルマを守るように布陣していた。
ケルマは召喚師、つまり遠距離攻撃タイプ。
マグナたちはウォーデン兵とテテノワールを直接的に相手しながら、ケルマの召喚術からも 逃げなければならないという過酷な戦況に追い込まれていた。


「ほーっほっほっほ!ラブミーウインド!!」


ぶわっ!


ケルマの呼び出した召喚獣からピンクの煙が吹き放たれる。
照準に近い場所にいたメンバーは皆、必死の思いでその煙から逃げる。
前線で戦うメンバーに仲間だからと手加減をする余裕があるはずもなく、魅了されたが最後 激しい集中攻撃に遭うということは既に経験済みだ。
実際にぼろぼろになっているマグナがそのいい例だろう。
トリスによって情け容赦なくたたき起こされたマグナは、それはもう必死に煙から逃げている。
レシィもそんな主人の酷く柔らかな笑顔を目撃してしまったために、顔色を無くして逃げて いるほどだ。
もちろん、巻き込まれてしまったも同様である。


「うぉりゃっ!」


アメル、マグナ、トリス、レシィ、レオルド、
メンバーの中で唯一、物理的に遠距離攻撃が出来るのはだけだ。
召喚術の連発は魔力切れを引き起こすため、なるべくその使用を控えている。
召喚術しか使えないアメルとミニスは切り札、召喚術も戦闘もほどほどに出来るトリスとマグナ は前線、そして戦闘しか出来ないは言うまでも無く前線。
はマグナとトリスが向かう先に照準を向け、正確に矢を放っていく。
が順調に一人で敵を倒し、着実に前進を続けているのを視界の端で見やりながら、 トリスに向かおうとしているウォーデン兵の手甲めがけて矢を放つ。
上手く命中した衝撃で僅かに剣を持つ手の力を緩めたところを、脇からマグナが大剣で叩き落し て戦力をなくしていった。


「アメル、あっちの弓兵に"イビルファイア"頼む!ミニスはあっちに"プチメテオ"!!」


の言葉を聞いて、すぐさま二人が呪文の詠唱を開始する。
放たれた召喚術は寸分の狂いも無く標的に命中し、その戦力を削いだ。
は弱ったその敵に矢を放ち、駄目押しをしてから再びマグナ達のフォローに回る。
次第に減っていく自軍と近づく距離に、ケルマが悔しげに歯噛みをした。
若草色の石を掲げもち、高らかに呪文詠唱を開始する。
その瞬間からぶわりとケルマの周囲に桃色の風が立ち込め始めた。
ひくり、とマグナの顔が引きつる。
状態異常系の召喚術に耐性のあるレオルドは兵士の鎧をドリルで豪快に殴り飛ばしたが、 その隣にいたレシィは引きつった悲鳴をあげてケルマから間合いを取った。


、ケルマ狙って!集中力削いで!!」


「わーってるっつの!!」


の声には矢を引き絞った。
弦がギチギチと音を立てる…狙う先はケルマの真横、観賞用に置かれている植木鉢だ。
今ならまだ、集中を欠いても暴走にはいたることは無い。
照準を定めて矢を放とうとしたそのとき、は背筋に悪寒を感じてその場から飛びのいた。
すると、まさに先ほどまでがいた場所に鋭く矢が飛んできた。
先ほど倒したと思った兵が回復してしまったらしい。
を見守っていたマグナがすぐにその兵を伸すが、その間にケルマの呪文詠唱は終わって しまっていた。
狙いを定めていた陽は、術の効果範囲内。


、逃げてーっ!!」


ミニスが必死に叫び、も自体を悟って弓矢を投げて駆け出そうとする。
が、一足遅かった。


「遅くてよ!ラブミーウインド!!」


いっそう濃くなったピンクの煙が、意思を持っているかのようにめがけて収束していく。
はそれを避けようとするが、突然ぶわりと広がった煙は避けることも不可能。
思い切り煙を吸い込んでしまった陽は、その場に崩れ落ちてしまう。
はそんなを見て、すっと目を細めた。
事態に混乱してしまっているトリスでは、先ほどのマグナの意識を回復させたときの働きを 期待しても無駄であろう。
足元に転がっている鞘を蹴り上げてキャッチし、陽の動きをじっと見詰めた。
暫く咳き込んでいたようだったが、ぴたりと動きを止める。
そしてゆっくりと、緩慢な動きで立ち上がった   その瞳には、らしさは 見て取ることが出来なかった。
常ならば見ることが出来ないほどに真剣なの瞳の先にいるのは…ミニス。


「ミニス、逃げて!の狙いはあんたよッ!!」


が叫ぶが、やはり混乱しているミニスは硬直したまま動かない。
以外にしっかりとした足取りでミニスに歩み寄るの手に武器は無い。
しかし男の筋力だ、幼いミニスを行動不能にさせることは容易い。
位置的に、とミニスの間にがいる。
を殴り飛ばそうとが足を踏み出した瞬間、その眼前にテテノワールが姿を現した。
慌ててブレーキをかけて避けようとするが、テテノワールはを排除対象として認識 してしまっている様子。
仕掛けられる攻撃を避けながら、の背中を見た。
距離が開いてしまっている…今から走っても、では間に合わない。


「逃げなさい、ミニス!もしくは召喚術叩き込みなさい    自分の身の安全が 最優先事項よ!!」


ミニスが慌てたようにポケットをあさり、若草色の石を取り出した。
しかし呪文詠唱を始めようとしたミニスに、はたどり着いてしまった。
石を持つ手を掴み、ひょいっとそれを取り上げてしまう。
絶望的だ…ミニスも危険になるが、こうなったらアメルに召喚術を放ってもらうしかない。
が手に持った鞘でテテノワールを殴り飛ばすのと、がミニスの手を取ったままその場に 膝をつくのはほぼ同時だった。
その光景を見てしまったは、アメルにかける言葉も忘れてその様子を凝視する。


「え……あ…」


「ミニス」


は、優しくミニスの名を呼んだ。
瞳にも優しさが満ち溢れている…しかし、それは本来のではない。
ミニスに膝をつく様は、貴婦人の前でのそれと寸分も違わない。
恭しくミニスの手を持ち上げ、はいとおしげにミニスに微笑みかけた。


「ミニス…なぁ、俺にずっと、味噌汁を作ってくれないか……?」


「え…、ええぇっ!?ミソシルって何!?」


混乱しているミニスは、半泣きになりながらの掴む手から逃れようとする。
しかしは離そうとせず、むしろぐいと強く引っ張った。
こてんとに向かって倒れてくるミニスを、はしっかりとした手つきで支える。
意識せざるを得ないほど近づいた顔に、ミニスは顔を真っ赤にした。
ミニスの頭のどこかに、は魅了されていて、これは自分を戦闘不能に陥れるための作戦 なのだという冷静な言葉が浮かぶ。
しかし良く見れば精悍な顔つきの、他人とは思えないが目の前にいる。
その事実がミニスの思考を妨害して、行動を阻害する。


「だからね、ミニス。俺はミニスに    …」


「黙れこのロリコンがっ!!」


がつんっ


風切り音と、鈍い音が響いた。
これ以上ないほどの柔らかい笑みを浮かべたまま、はぐらりと横に倒れる。
ミニスがぎこちない動きで見上げれば、そこには鞘を片手に肩で息をするの姿。
どうやら、その鞘で全力で殴ったらしかった。
ぴくりとも動かないの姿を視界から廃除して、ミニスはフラフラとその場から立ち退い た。
は軽蔑しきった目で倒れるを見て、追い討ちとばかりに横倒しになっている背中を 鞘で小突いてうつぶせに倒した。
の柔らかい笑顔は見えなくなった。


「…………責任、とってもらうわよ…」


は低い声でそう呟いた。
いつのまにか静まり返っていた庭園にその声よく響き渡る。
そして、その返事であろうケルマの小さな悲鳴もまた、庭園内に響いたのだった。










ケルマを睨みつけるは阿修羅のようだったと、後日マグナは語る。
かくしてケルマとの戦いは幕を閉じたのであったが、暫くの間はを軽蔑の眼差しで見つめる と、の顔を見た瞬間に顔を赤くして逃げるミニスの姿が観察されたらしい。
この日の出来事は「のご乱心」もしくは「の光源氏計画」として語られている…… かどうかは、当事者の涙から推測する他無い。
合掌。









すっごいノリノリで打ってる自分に気付いた…(笑)
きっと君はさんに散々苛められることでしょう。
実際の君はロリコンではありません、念のため。




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