その人の姿を視界に捕らえると、無意味に焦ってしまう。 心臓の動きがいつもより早くなって、何故かその動きを目で追ってしまう。 無意識のうちにその人を捜して目線が泳いでいたりする。 あたしにそんな行動をもたらす感情。 十人に聞けば十人が"恋"だと答えるだろう。 だけどあたしは、それを"名前の無い感情"と呼ぶ。 この想いは恋ではないのだと言い聞かすために。 胸に膨らむ期待を消すために。 だって、この想いが実ることはない。 「……?ちょっと、聞いてる?」 「へっ?あ、ゴメン!」 無意識に泳いでいた視線を慌てて目の前の少女…トリスに戻した。 トリスは頬を膨らませて、少し怒ったようにあたしを軽く睨む。 あたしは笑いながらトリスにもう一度謝った。 トリスがお姉さんみたいな感じがして、だけどいつもの行動とあまりにも違うそれに何故だか笑えてきたのだ。 もちろんあたしのそんな考えを知らないトリスは、急に笑ったあたしを驚いたように見つめる。 あたしは何事もなかったかのように、トリスに聞き返した。 「それで?」 「それで?じゃないわよ!まったく……だからね、ロッカの事よ。」 不意打ちのように、何の準備もしていないあたしの心にその名前が突き刺さる。 笑顔が強ばりそうになるのをどうにか堪え、その表情をきょとんとした物に変えた。 その方が笑顔よりも崩れにくいし、維持が楽だ。 それに驚いているのも事実である。 話の話題になるにはあまりにも不似合いな人物…槍使いで同じ顔の双子を持つロッカ。 「ロッカがどうかしたの?」 「本当に何にも聞いてなかったんだね、…。これが最後だよ?ロッカが、綺麗な女の人と並んで繁華街を歩いてるの、あたし見ちゃったの!」 ずきん、と鈍い痛みが胸に突き刺さった。 予想外の不意打ちの攻撃だ。 アメルと仲良くデートしていた…というような話題を予想していただけに、ショックは大きい。 だけどあたしはそんな様子を見せることなく、驚いた表情を保った。 「綺麗な女の人?アメルじゃなくて?」 「そう、見たこと無い人!しかも美人で、大人っぽいの!ロッカってああいう人が好きなのかな…?」 ずきん、ずきん。 トリスの無邪気な言葉が、あたしの心を削っていく。 あたしのこの"名前の無い感情"を知っている者はいない…はずだ。 もしかしたらトリスの護衛獣であるバルレルが感づいているかも知れないけど。 彼は悪魔で、人間の感情には人一倍敏感だと聞いたから。 だけどそれ以外のメンバーは誰も知らない、はず。 だから無意識の言葉だって覚悟していたはずなのに、こんなにも痛い。 ああ、また前よりも沈んでしまった。 自分自身の感情に溺れて、窒息してしまいそうになる。 追いかけて追いかけて、でも彼の姿はまだ見えない…それなのに追いかけ続けてしまっている。 訪れることのないゴールを求め彷徨い続けてしまう。 「どうだろう、男の人の気持ちは判らないなぁ…?てっきりアメルのこと好きなんだと思ってたよ、あたし。」 「あっ、も?でもそうなると今度はリューグとロッカでアメルの取り合いになるよねぇ…。」 年頃の女の子らしく、やっぱり他人の恋路は気になるらしい。 あたしは隣でぶつぶつ呟きながら思考を巡らせているトリスに笑いかけた。 「それよりトリスはどうなの?ネスティと。」 「えっ、ええぇっ!?ネスとは何にもないよ!?やだなーってば、いきなり何を言い出すのよっ!?」 突然トリスの声が大きくなって、視線が泳ぎ始める。 ここまでハッキリと感情が出せるのはある種の特技だと思うなぁ…。 そんなことを考えながら、あたしはクスクスと笑う。 これで話題は逸れた。 そしてあたしももちろん年頃の女の子だ、他人の恋路に興味はある。 「この間みんなで買い物したとき、ネスティさり気なくトリスの荷物持ったよね?」 「あれは…っ、でもネスってば隣歩きながらお小言ばっかりだったんだよ!?」 「それはトリスのこと、本当に心配だからでしょ?どうでもいい人に小言なんて言わないじゃない。それに…照れ隠しでもあるんじゃないの?」 自分の感情をストレートに表現するネスティの方が、あたしには想像しづらい。 そして照れ屋なネスティのことだ、親切で荷物を持っているとは悟られたく無かったのだろう。 メンバーの誰よりもトリスに厳しい所なんて、愛情の現れだと思う。 真っ直ぐに愛されている…なんて、羨ましいんだろうか。 だけどあたしは"恋"に憧れてはいけない。 そうすることが、あたしの中の"名前の無い感情"に無意識に名前を付けてしまうから。 「トリスだって満更じゃないんでしょ?」 「わ…かんない。小さい頃からずっと一緒だったから…なんか、今更って感じが」 「今更とか言わないの!確かに付き合いが長いと言い辛いかも知れないけどさ、絶対に言った方がいいって!結果がどう終わったって、言わないで後悔するよりもマシだよ。」 人に言う台詞ならばこんなにも簡単に紡ぐことが出来る。 だけどあたし本人は、絶対に言う事なんて出来ない。 ロッカにはアメルという好きな人がいる…そして、ロッカは優しすぎる。 きっとロッカはあたしのこと気遣ってくれるだろう、でもそれがあたしには痛い。 あたしのこと思ってないのなら優しくなんてしないで欲しいと、そう思うタイプの人間だから。 だからあたしは感情に蓋をして、名前を付けることもしない。 「………じゃぁ、は?」 「はっ?」 「だから、の好きな人だよ。まさかいないなんて訳無いでしょ?」 自分の恋について話されるのが恥ずかしかったのだろう、微かに頬を染めているトリスはお返しとばかりに話題をあたしに向けてきた。 しかもご丁寧に"いない"という選択肢は事前に消されている。 あたしは顔が熱くなるのを止めることが出来ずに、それでも極力普通の表情を保とうとした。 意外な場所で勘の鋭さを発揮させるトリス相手には、少しの油断も見せられない。 「何で?いないよ、好きな人なんて。」 「嘘!さっきだってぼーっとしてたの、好きな人のこと無意識に捜しちゃってたんじゃないの?」 「うっ……」 ほら、ドンピシャで当てられてしまった。 だけどここで無理矢理否定するんじゃなく、少し演技ぶった調子であたしは胸を押さえる。 それから横目でトリスを見やった。 「す、鋭い…トリスの勘、最近冴えてるよね…特に恋愛ごとに関しては。自分がそうだから?」 「話を逸らさないでよ!…で?好きな人って誰なの??」 悪戯っぽく微笑んで、トリスがあたしの腕をぎゅっと抱きしめた。 これであたしはトリスが解放するまで逃げることが出来ない。 困ったように微笑みながら、内心は酷く焦っていた……一体どうやって誤魔化そう? するとこれまたどこから現れたのか、突然自由だった左手も誰かに握り込まれてしまった。 慌てて振り返ると、そこには生き生きとした笑顔のアメル…この子も好奇心旺盛な年頃の女の子か。 「あたしも知りたいな、の好きな人…ロッカかリューグはどう?」 「あっ、ずるい!それだったらお兄ちゃんは!?」 "好きな人を聞き出す"と言うよりも、話の中心は"より好みに近い人間"は誰かを探す流れになってきた。 これはこれで面倒だけれども、さっきの話題よりも誤魔化しやすい。 あたしは両隣で長所の言い合いを続けるとリストアメルをなだめて、困ったように微笑んだ。 「ロッカは凄く優しいところが…好きだよ。リューグはちょっとひねくれてるけど、人一倍正義感の強い所が好き。マグナはあの癒される笑顔が好きだな。」 「そう言う"好き"じゃないってば!」 「そうよ、恋人としてどうかって事が聞きたいの!」 「うーん…それは難しい質問ねぇ…」 あたしは表情を動かさないまま、そっと二人から手を抜き取った。 逃げるんじゃないかと警戒する二人に微笑みかけ、それから考えるように顎に手を添える。 ちょっと真剣な顔をしてみると二人はあっさり警戒を緩めた。 その隙をもちろん逃すことなく、あたしは勢いよくその場から駆け出す。 トリスは体力があるけれども召喚師。あたしは前線で戦う剣士。 アメルは当然召喚術ばかりだから体力はない…普通の女の子と比べれば、森で育ったから体力がある方なのだろうけれど。 とにかく走るスピードはあたしの方が二人よりも上。 当然追いつかれることもなく、そのまま逃げ切ることが出来たのだった。 「逃げられちゃった…もー、好きな人まだ聞き出せてなかったのに!」 「頼まれてたのに、上手くいかなかったね……でも、ちょっと判ったかな?」 遠ざかるの後ろ姿を見送りながら、トリスとアメルが溜息を付いた。 アメルがぽつりと呟いた言葉に、トリスが驚いたようにアメルを見る。 しかしアメルは楽しそうに笑うだけで、いっこうにその内容を喋ろうとはしない。 「教えちゃったらつまらないもの…トリスも、それから彼もね?」 アメルはにっこりと笑ってそう言ったのだった。 取り敢えず走って、走り続けて、向かったのはハルシェ湖だった。 きっとアメルもトリスも、途中であたしを捕まえることは諦めているだろう。 行き来する船を何となく見つめながら、あたしは小さく溜息を付いた。 走ったことと、そしてそれとは別の理由で心臓の音がいつもより速いペースを刻んでいる。 「駄目だな………」 膝を抱えて、額を膝に押し当てた。 時折吹く風が髪を揺らし、船上の声だったりを運んでくる。 あたしはこの"名前の無い想い"をずっと、名付けるつもりなんて無かった。 このまま名無しで良かったのに。 先ほどの会話で名前が付けられてしまった…そして、一度名前が付けばそれを取り消すのは不可能に近かった。 あたしの想いは、"恋"なんて言う名前が付けられてしまった。 「………さん?」 あたしの後ろ、意外と近い場所から声が聞こえた。 無防備だったあたしの心に、その声が突き刺さる。 ただ名前を呼ばれただけ、それだけなのに心臓が早鐘のように煩い。 あたしはゆっくり、出来るだけゆっくり振り返った。 もしかしたら空耳かも知れない。 だけど振り返った先に、声の主はしっかりと立っていた。 「…ロッカ…………」 呆然と呟くあたしに、ロッカは心配そうに眉を下げた。 それから、ゆっくりとした動きであたしの隣に腰掛ける。 あたしの心臓が跳ね上がる。 なるべく視界にロッカが入らないよう努力しながら、あたしは遠くを見つめた。 「どうしたの、ロッカ?リューグと稽古してたんじゃなかったの?」 「稽古はもう終わりました。それより…何か、悩み事ですか?」 優しいロッカは、気遣わしげにあたしの顔を覗き込む。 そんな風に心配されたら期待してしまう…それが、仲間に対する行動だって頭では判っていても。 心の何処かが"もしかして…"なんて思い始めてしまう。 「ううん、ただぼーっとしてただけ。何かのんびりするのも久しぶりだなって思っちゃって。」 「…………そう、ですか。」 ロッカは微笑んだけれど、その微笑みの中には何処か悲しさが含まれていた。 あたしはにっこりと微笑んだまま、もう一度遠くを見つめる。 しばらく、二人の間に沈黙が流れた。 その静寂に耐えきれず、あたしは視線を空に移した。 「ねぇロッカ、ロッカってアメルのこと好きなんでしょ?」 「え…?」 「隠さない、隠さない…ロッカの行動見てれば判るよ、何となく。アメルといる時嬉しそうだし、いっつもアメルの心配してるし。」 叶わない恋なんだと、そんなこと自分の気持ちに気付いた瞬間から知っている。 だから期待させないで欲しい。この想いを膨らませないで欲しい。 今すぐ粉々に砕いてしまおう、そうすればいい。 ロッカの口から好きな人を聞いてしまえば、それが私でなければ、それでもう十分だから。 ただ一言だけ、肯定の台詞を聞けばいいから。 「……さんはどうなんですか?」 「どうっていうのは?」 「マグナさんのこと、好きなんじゃないんですか?」 「………へ?」 どうしてここでマグナの話が出てくるんだろうか、イマイチ理解できない。 思わずロッカの顔を正面から見てしまう。 ロッカは、なんだかとても辛そうな顔をしていた。 「マグナさんの前だと、他の人には見せない表情をしている事…気付いてますか?」 「他の人に見せない表情…?」 「照れたように笑ったり、恥ずかしそうに俯いたり……」 ………確かにそんなこともあったけれど、アレはそんな甘酸っぱい物じゃない。 ネスティの過激なレポートについて談義していたときの話だ。 お互いの採点済みのレポートを見せ合って、色々と話をしたりする。 恐ろしい単語間違いを指摘されて照れたり、書いた内容を素直にあの笑顔で褒められて恥ずかしかったりしただけだ。 「こんな事言うのは辛いんですけど…アメルがマグナさんのことを好きなんです。」 「え…ええぇぇ!?アメルがマグナを!?ナニソレ、両思いだったんじゃない!!」 「は……両思い?」 「そうよ、マグナってばアメルはロッカのこと好きなんだって思ってて、てっきりあたしもそうだと思ってたから……なんだ、そっか両思いなんだ!!」 なんだかものすごく嬉しくなった。 レポートの話をしながら、時々マグナから恋愛相談を受けたりしていたから。 傍目から見たらマグナがアメルを好きだなんて思わなかったけど、話を聞いてからよく見てみると、確かにマグナはアメルに優しかった。 アメルがいる前ではいつも通りの笑顔で、アメルがいなくなってから少しだけ照れくさそうにしている。 そんなマグナがものすごく可愛くて、実らないかも知れない恋なのにあたしみたいに卑屈にならないところを尊敬して。 実はものすごく応援していた恋だった。 …二人がくっつけばロッカが脈有りになるかも知れないなんて言う、あたしの身勝手な想いもあったんだけれど。 「マグナとアメルのカップルか……て、え?ロッカ、アメルのこと好きなんじゃ?」 浮かれていた気分がすっと冷えていくのが判った。 アメルのことが好きなロッカにとって、さっきまでのあたしの行動は酷く残酷なものだ。 その気持ちを痛いほど理解できるはずなのに、どうしてあんなに浮かれてしまったんだろうか? あたしはロッカの表情をそっと見やる。 しかしその表情は、とにかく驚きで溢れていた。 「さんこそ、マグナさんのこと好きだったんじゃ……」 「え?あたしは別に…間違いレポート指摘されて恥ずかしがってただけ。そう言うロッカだって、アメルのこと好きなんでしょ?」 「確かに好きですけど、それは恋愛感情ではありませんよ。兄弟愛の域を出ることはありません。」 「はっ?それじゃロッカ、ただのシスコン!?」 今まで恋情から生まれている行動だと思っていたのに、アレは全部妹可愛さ? 兄弟愛から生まれる行動?保護欲? そんな…そんな話ってあるんだろうか。 目の前のロッカは"シスコン"という単語が判らずにいるが、それでも驚いた様子を隠せずにいる。 「なんだ…お互い、間違ってたんですね。」 「ホントねー…いやでも驚いた。」 苦しかった想いが晴れてきて…そしてあたしの心に期待が生まれる。 だけど忘れちゃいけない、ロッカには好きな人がいる。それだけは確かだ。 恋煩い特有の表情を浮かべることもしょっちゅう。 何よりマグナが、それらしい会話をしたというのだ。 「マグナさんじゃないとすると…さんの好きな人って、誰なんですか?」 「そう言うロッカこそ誰が好きなのよ。」 心臓はばくばくと言っているけれども、そんな様子を見せちゃいけない。 期待し過ぎちゃいけない、あたしじゃない可能性の方が大きい。 ……いや、あたしのこと好きだって言う確率があまりにも少ないんだから。 認めてやる、あたしはロッカのことが好きだ。 だからこそ……ロッカの恋路を応援してやろうじゃないか。 卑屈になるばっかりじゃ駄目だから。 ロッカの幸せがあたしの幸せ…なんて事はまだ言えないけど。 笑顔で背中を押して、応援してやろう。 あたしの中のロッカへの想いが消えることはないけれども、だけど大丈夫だ…… 「僕は、さんのことが好きです。」 がっしゃん。 嬉しいとか恥ずかしいとか、そんな感情よりも先に。 腹くくったあたしの想いが一瞬にして崩れ去ったことに対する憤りの方が先に出てきてしまった。 あたしはその場に勢いよく立ち上がって、座ったままのロッカを見下ろす。 そしてずびしとロッカを指さした。(人を指さすのは失礼です) 「せっかく気持ち割り切った瞬間に何でまた!タイミングが悪い!!」 「……はい?」 「ロッカの口から誰の名前が出ようとも、笑顔で応援してやろうって決めた所 だったのに…あたし本人だったら応援できないじゃない!?」 自分で言っていて、意味が分からない。 そうじゃない、この場合もっと優先的に言わなきゃいけないことがあるはず。 ぜーはーと大きく肩で息をして、顔が熱くなるのを自覚しながらあたしはロッカを正面から見つめた。 「あたしだってロッカのことずっと好きだったのよ!」 ああ、なんて色気のない告白。 だけどあたしは恥ずかしくて穴に入りたい気持ちで一杯だった。 そして平然とした顔で告白してきたロッカに対する憤り。 あたしはこんなに必死なのに何であんなに余裕なの!?…という明らかにお門違いの想い。 改めてロッカの顔を見てみれば、驚いたようにぽかんと口を開けて、だけどその頬が徐々に赤みを帯びているのは…気のせいじゃない。 そんなロッカの反応に、更にあたしは気恥ずかしくなってきた。 言い逃げのようにその場を去ろうとロッカに背を向けると、がしっと背後から腕を掴まれた。 そのまま強く引っ張られ、バランスを崩して後ろに倒れてしまう。 だけど地面に衝突する前にあたしの身体はロッカに支えられていた。 「本当…ですか?さんは僕のこと…」 「ええそうよ、好きだったわ。だけどアメルのこと好きなんだって思ってたから諦めてたの!」 「僕も…ずっとマグナさんのことが好きなんだと思ってた……」 お互い、顔は赤いんだろうなと思う。 だけど呆然としているロッカと目が合うと、なんだか急におかしくなってしまった。 あたしが笑い出すと、ロッカも笑い出した。 二人でしばらく笑い合ってから、抱きかかえられているような体勢に今更ながら恥ずかしくなる。 慌てて抜け出そうとすると、ロッカに抱きしめられてしまった…逃げられない。 じゃなくて、さっきよりも恥ずかしい体勢になっている。 「ちょ、ロッカ!?」 「嬉しいです…叶わないと、ずっとそう思っていたから…」 ロッカは、本当に凄く嬉しそうな…見ているこっちも嬉しくなるような、そんな笑顔を浮かべていた。 それにつられてあたしも笑顔になる。 そしてじわじわと、心の内からあふれ出す嬉しさにその笑顔は深くなった。 「あたしも………凄く、嬉しい。」 あたしの中の名前の無い感情は、ロッカによってはっきり名付けられたのだった。 NAMELESS 「…そう言えばロッカ、トリスが言ってた美人なお姉さんって言うのは?」 「ああ……トリスさんにお願いしたんです。さんがどういう反応するか、見てきて欲しいって。」 (………なんか、ものっすごいイイ笑顔してるけどロッカってこんなキャラだったっけ…?) |