「………泣かないでよ、もう…」


間もなくティータイムを迎えようという時間のリビングのソファの上。
外の穏やかな天気の気配とは対照的に、私とシャムロックは互いにしがみつくみたいにして抱き合っている。
嗚咽する声が静かな部屋に響く中、私も震える喉から懸命に声を出した。
さっきまで平気だったのに、シャムロックがしがみついて涙をこぼし始めてから私もすっかりその感情に流されそうになっている。
時折ふるりと震えるシャムロックの肩を見つめながら、せっかくならその涙が胡桃色の瞳から散らばっていく様を見たいなぁなどと思考を飛ばして震える喉をこらえる。


(シャムロックの泣き顔かぁ……あ、やばい…ホントに見たいかも)


私は私の想いに忠実にしたがい、それまでシャムロックの背中に回していた手をそっと肩に移動させ、ゆっくりと押した。
シャムロックが私の動きに気づいて自分からそっと身体を離す。
それまでシャムロックの顔が埋められていた私の肩は、彼の涙でしっとり濡れていた。
顔を上げたシャムロックは目元を赤く染め、じっと見ている間にまだ瞳に涙を貯めていた。じっと見つめていると雫がはらりと瞳からこぼれていく。
頬を流れるその涙をすくうようにそっと頬にくちづけ、そしてそのまま額にゆっくり唇を押し当てる。


「……っ、…」


堪えていた嗚咽が溢れそうになるのを、シャムロックは軽く唇をかんで飲み込んだ。
そして恥ずかしそうに目元を染めたまま、じっと見つめる私の視線から逃げるようにわずかに俯く。
落ち着く気なくさまよう視線と、相変わらずじわじわと潤んでいく瞳。
間近で見つめたそれは可愛らしく、愛おしく、狂おしいくらい私の感情をかき混ぜて、そして同時にとても穏やかな思いを胸の内に落としていく。
シャムロックの何もかもが愛おしくて仕方がなかった。
鎧を見に纏った誰もが見惚れるような姿も、息を飲むような鋭さを持つ剣技も、少しのことで顔を真赤にして恥じらう姿も、全て、何もかも。


「ね、シャムロック……私、シャムロックの全部が好きで仕方が無いんだよ。だから独り占めしたい」


囁きながら私はシャムロックの手をとった。
守備隊長として仲間を守り、旅の中でマグナたちとも共に歩み、そして自由騎士団を率いている手。
硬くなった皮膚が剣を持つ男の手であることを十二分に伝えている。がっしりとして力強くて温かい、持ち主そのままを表しているかのようなシャムロックの手。
ゆっくりと手のひらを包んで、親指で薬指の付け根をゆっくりとなぞった。
誓の輪がいつの日か収められるであろう場所。


「………だめ?」


「そんなこと…駄目なわけが、あるはずない…」


俯いていた頭を上げて、シャムロックがそれまで逸らし続けていた瞳をまっすぐ私に向けてきた。
ぎゅう、っとシャムロックの手が私の手を握り込む。


「それなら」


シャムロックに握りこまれていない方の手を持ち上げ、私は彼の頬に手を添えてまっすぐ瞳を見つめた。
それまでずっとクリアだった私の視界が一瞬だけ滲んで、シャムロックが僅かにぼやけて見える。
ぎゅっと目を瞑ってそんな視界を黒く塗りつぶしていからもう一度シャムロックを見つめると、透き通った色のシャムロックの瞳の中に、泣きそうな照れくさそうな私が写りこんでいた。


「……私と家族に、なりませんか?」


「もちろん………喜んで」


シャムロックは涙をころっと零しながら、柔らかく愛おしい声で応えてくれた。





涙の雫の落ちる軌跡





(貴方の流す涙が、世界で何よりも美しいと感じた)



気になる言葉で七の小噺|リライト様