なにやら小難しそうな顔をして帰ってきたキースは、私の顔を見るなりそのまま視線を下にずらしてきた。
顔から首、鎖骨、珍しくしているネックレスも通過して、視線はその下の膨らみのあたりで止まる。
キースでなければこの時点で平手打ちだ。


「何まじまじと見て……え、うわ、なに?」


ぺたり、とキースの手が私の胸を覆った。
キースの手のひらは大きく、さほど小さくもない(はず)の私の胸もすっぽり収まっている。
そのまま感触を確かめるかのようにわしわしと揉み出したキースに、さすがにチョップをかましてストップを掛けた。
キースがきょとんとした顔でこちらを見る。


「いや、何なの急に人の胸揉んで…」


「いや…ワイルドくんが女性の胸は柔らかいものだと力説するものだから、つい確認したくなったんだ」


キースは質問に対して、悪びれること無くぺろっと答えた。
脳内に鼻の下を伸ばしてコメントしていたであろうワイルド・タイガーもとい鏑木氏を思い浮かべて、取り敢えず脳内で思い切り殴り飛ばす。
未だに胸に添えられたままのキースの手を外して、私はじろっとキースを見上げた。
キースはといえば外された手をチラッと見てから私の胸にまた視線を写している。感触思い出してるな、こいつ。


「……ちなみに、その感触の感想口にしたら張り倒すわよ」


「? 私はの胸は柔らかいと…」


「いやだから口にしない!っていうか世間一般の女の子の胸に比べてどうかなんて自覚してるわよ」


ブルー・ローズの衣装で垣間見える胸元とか、正しく女の子の象徴だと思う。
ふっくらと柔らかい感触は私にだって過去存在していたけれども、警察庁に身を置いてからはすっかり離れてしまった。
日々繰りかえされるトレーニングと、それによって鍛え上げられていく肉体、発達していく筋肉。
体質とトレーニング量からそこまで筋肉質になる方ではないにせよ、やはり胸筋が付けば胸の形も多少変化するし、もちろん触りごこちだって変わっていく。
脂肪ばかりではない筋肉の存在感がある私の胸は、お世辞にも他の女の子たち同様に柔らかいだなんて言えない。
そんなことは私が一番分かっているのだ。


「私の胸よりは柔らかいと思う」


「いや、キースと比べないで…っていうかよりへこむ……」


何が悲しくてキースの筋肉もりもりの胸と比較されなければならないのか。
はぁ、と思わずため息をこぼしたのと同じタイミングで、キースがそっと私の背中に腕を回してハグをしてくる。
キースの硬い筋肉に包まれて、私はもう一度、今度は心のなかでため息を付いた。


「私はの身体は柔らかいと思うし、例え他の女性と違うとしても、それはが頑張っているからだと知っているよ」


キースの胸に押し付けられた頭が、そっと大きな手で撫でられる。
その手がそのまま腰に回っていくのを感じるが、制止の声は喉から出てこない。


「……そうやって欲しい時に欲しい言葉ばっかくれるの、ずるい…」


「それだけいつものことを見ている、そして見ているんだ」


こうも恥ずかしいことをよくもまぁ臆面も無く言えるものだ。
赤くなっていく顔を隠すように額をキースの胸に押し付けて、そっと腕をキースの腰に回した。
私を抱いていたキースの腕の力が強くなる。


「…このままベッドまで連れていっても?」


「落とさず連れていってくれるならね」


未だに顔を上げられないままの私の返答に、頭上で小さく笑う気配がした。
そしてそっと抱き上げられる感触。


「お安い御用さ!」


私はキースの返答に、無言のまま首に腕を回すことで応えたのだった。





柔らかい、





(大して柔らかくない私の胸を包むのは、貴方の柔らかい笑顔)