「よっしゃー貴陽ー!」
街道の門をくぐって街に一歩足を踏み入れた瞬間、俺は達成感に拳を握りしめた。
親父の知り合いのコネを使い行商人に混ざってやってきた貴陽。
他州とは比べものにならないくらいの清浄さは、これはこれで過ごし甲斐があるなぁと小さく笑った。
こういう環境って人の性格形成にどれくらいの影響を及ぼすんだろう。
暫くココにいるわけだし、ちょっと調べてみようかな。
「それはそれとして…さて、これからどうするか」
ちなみに最重要点は"目立たないようにひっそり"である。
俺が今ココにいることを伝えていないあいつに知られでもしたら大目玉だ。
でも懐具合は芳しくないので、日がな宿に引きこもりって策も使えない。
貴陽にも親父の知り合いは多いけど、親父のコネが使えるのも貴陽までだと釘差されたし。
コネ使おうと思った瞬間に強制送還される。断言出来る。
だから、ここから先は本当に自力で何とかしなければならない。
「ところでココって貴陽のどのあたりだ?」
荷物の中に地図は入っているけれども、いかんせん現在地が判らない。
……どうやら俺の思っていた以上に前途多難かもしれない。
「困ったなー…っと?」
ぼんやりと周囲を眺めていると、仕立の良い、それでも機能的な軒が目の前をすうっと通り過ぎていった。
実家の職業柄ついそれを目で追いかけてしまい、ついでに大店の商用の軒だとまで分析してしまう。
貴族が乗る軒は人間用、しかし商用の軒は商品の運搬用が主だ。
人が乗り降りへの配慮が少なく、御者の数が多く、それに伴い御者台が広いのが商用軒の特徴だが、先ほどの軒はそれを見事に兼ね備えていた。
軒の豪華さからすると羽振りは良いみたいだし、雰囲気的にお得意さまへの売り込みに向かっているようだった。
つまり、行き先はこれまた羽振りの良い店。
「……取り敢えず追っかけるか」
その店が親父の知り合いの店でなければそこで今後のことを考える。
親父の知り合いの店であれば、近くにあるだろう別の店を探す。
たいてい商店なんて物は特定の区画に集中する物だ、別の店もすぐに見つかるだろうし。
商品の安全のためにゆっくり進んでいる軒を、俺は見失わないように急ぎ足に追いかけた。
男主連載、というのはこれが初めてだったりします。
タイトルからして終着点は明らかですが、お付き合いいただければ幸いですー。