は船が動き出してしばらくしても、相変わらずキラキラと煌く水面を飽きること無く見つめ続けていた。
最初の頃は身を乗り出さんばかりに海を見つめていたを慌てて止めにかかっていた船乗りたちも、今ではすっかり諦めた様子で自分たちの仕事に戻っている。
動く景色、海風と波の音、時折近くまでやって来る海鳥、何もかもがにとっては初めて触れるもので、とにかく飽きる隙がない。
そうして波の音ばかりに傾けていたの耳に、突然「きゃっ」という女性の小さな声が飛び込んできた。
「え、何……わふっ!?」
が何事かと振り返ると、その眼前には白い物体。
そのままぱふっと顔にぶつかってきた白い物体を受け止めると、声を上げた女性がほっとした表情でパタパタとに近づいてきた。
どうやら彼女の帽子が風に飛ばされたところを、運良くが捕まえたことになるらしい。
「すみません、ありがとうございます!もう少しで海に落ちちゃうところでした…!」
「いえいえー、私も捕まえようとして捕まえたわけじゃないので…」
「でも本当に助かっちゃいました、どうもありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた女性は風に流される長い赤髪をおさえながら、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
は女性に帽子を返しながら、パタパタとはためく白いマントやら胸元で大きく主張をしている女性らしさやらブーツと服の隙間のチラ見え具合やらについ目を奪われる。
優しさの中に感じるしっかりとした雰囲気も含め、にとっては彼女もまた初めて出会う種類の人間で、ウキウキが止められずに居た。
「私、っていいます!パスティスまで用があって初めて船に乗ったんですけど、あなたは?」
「私はアティです。この船には家庭教師の仕事で、弟と一緒に乗っているんですよ」
「えーっ、家庭教師!?スゴイスゴイ、頭いいんですね!私も実は勉強しなきゃいけないんですけど、もーさっぱりで…」
はびっくりしたような顔で女性、アティを見つめてからぱぁっと一気に表情を明るくさせた。
それは自分と年齢が近いであろうアティが人に勉強を教える立場であるという事への賞賛と憧れ、そしてそんな人物に旅の道中で出会えたことへの純粋な喜びだった。
の眼差しを照れくさそうに受け止めたアティは、の口から出た「勉強」という言葉に小さく首を傾ける。
「ちなみに何のお勉強なんですか?」
「実は召喚術なんか勉強してみたいなー、とか思ったりしていて…あはは、勉強とかガラじゃないのは判ってるんですけどね」
自分で笑いながら言ったとおり、は余り「勉強」と言う言葉が似合う雰囲気の人間ではなかった。
派手なオレンジ色の髪、七分袖のへそ出しの上着と、グレーのタイツにかなり短いショートパンツという格好に加え、コロコロと変わる表情と底抜けに明るい雰囲気は、何にも縛られることのない旅人のような自由奔放さを強く感じさせる。
実際に今までは割と自由に旅をして暮らしていたし、きちんとした場所で勉強をした経験も今までの人生で一度もない。
そんなの言葉に少し驚いたような表情を見せたアティは、しかしふわりと柔らかくに微笑みかけた。
「召喚術は理論は少し難しいですけど、きちんと勉強すればちゃんと使えるようになりますから安心して下さいね、さん」
「わー!ありがとうございます、頑張ります!すごーい本当に先生だ!」
キラキラと子供のように見つめてくるに、アティは思わず小さく笑った。
生徒たちとの距離を詰められずに落ち込んで甲板に出てきたはずなのに、気付けばこうして初対面の人間と楽しく笑っている。
アティの本音からすれば、こそ素晴らしい雰囲気と明るさを持って自分を元気にしてくれた凄い存在だ。
そうして初対面から数分にも関わらず互いに認め合い、その雰囲気や魅力を感じ合った二人はあっという間に打ち解けたのだった。


