2...Talk about myself.




ざわざわざわ…。
大広間のざわめきが聞こえる。
ボクは名前を呼ばれる新入生の中、マクゴナガル先生の 隣で順番を待ってい た。
校長曰く、たとえ前の時代でグリフィンドールだったと しても、この時代で そうとは限らないらしい。
適切な寮を選ぶために、ボクも組み分けの儀式を受ける ことになったのだ。
期待に胸を膨らませる新入生の中、ボク一人だけが場違 いに冷静に…むしろ 退屈そうにその様子を眺めている。


「さて…新入生の組み分けも全て終わったが、今年は新 たに仲間が加わるこ とになる。…… 我が校への留学生じゃ。4年生に混ざって授業を受けて貰う。」


マクゴナガル先生に背中を押され、ボクは壇上に上った。
ざわめく周囲を無視して、ボクはまっすぐ、3年前のあ の日のように壇上を進 む。
椅子の上に置かれたぼろぼろの帽子を手に取り、それを 深く被った。


『ふーむ…これは面白い。』


あの日のように声が聞こえる。
ボクはとりあえずどこでもいいやと適当に考えた。
どうせボクを知る人間はいないし、思い出すまでの期間 限定だ。
むしろ、最後には別れてしまうのだから親しみを持たな いほうが言い。
ここは過去…もしかなり前なら、未来に戻れば親友は既 に老衰…ということも在り得てしまうのだ。


『悲観的に考えることは無い……全ては運命の導くまま。 そして、その運命 を決めるのは他でもない君自身。』


「そんな事言われても、正直どこでもいいし………」


『勇敢な心、大きな好奇心…それに、無鉄砲なところもあ るようだ。』


「無視かよ。」


『やはりこれも運命……グリフィンドール!!』


帽子は完全にボクの話を無視しているらしい。
わーっという拍手を聞きながら、ボクは帽子を頭から引き 抜いた。
ぺいっと椅子の上に放り、のんびりとグリフィンドールの 慣れたテーブルに 向かう。
奥のすいている場所に座ろうとするが、脇から伸びた手が ボクの腕を掴んだ 。
びっくりしてそっちを見ると、黒い髪の鋭い眼差しの男の 子がボクを掴んで いるのと逆の手で手招きをしていた。
にやりと歪められたその笑みは見慣れたもの…悪戯仲間と 同じ笑い方だ。
…まぁ、フレッドやジョージなんかよりもよっぽどタチが 悪そうではあるけれども。


「俺らと座ろうぜ!俺はシリウス・ブラック。お前と同じ 4年生だ。」


だ…よろしく、シリウス。ボクが混ざっ てもいいのかい? 」


「むしろ大歓迎だ。」


にやっと笑いかけてきたシリウスに、ボクも同種の笑みで 返す。
シリウスに進められて隣に座ると、シリウスの正面に座っ ている男の子が手 を伸ばしてきた。


「やあ!僕はジェームズ・ポッター。ジェームズって呼ん でくれ。」


。ボクの事もで構わない…あぁ 、もちろんシリウ スも。」


差し出された手を握り返して、妙な近視感にとらわれた。
何だろう、この顔を見た事がある……そうだ、ハリーだ!
瞳の色が違うことを除いて、この男の子はハリーに瓜二つだ。
そういえばポッターって家名だし、親戚だろうか。


「僕はリーマス・J・ルーピン。リーマスでいいよ。 って呼んでも構 わないよね?」


「もちろんだよ、リーマス。よろしく。」


ジェームズの隣、ボクの正面にいるリーマスと握手をした。
リーマスはボクとは違い、爽やかに微笑んでいる。
結構綺麗な顔をしている…それを言えば、シリウスもジェーム ズもなんだけ れど。


「は、はじめまして…ぼく、ピーター・ペティグリューっていう んだ…」


「よろしく、ピーター。」


リーマスの隣に座っている、すこしぽっちゃりとした小さな男の 子がしどろ もどろに挨拶をした。
一通りの自己紹介が終わると、目の前の空の金の皿に豪華な料理 が現れた。
よかった、そろそろお腹がなりそうだったんだ。


「留学って言ってたけど、どこから来たの?」


「ノルウェーから。両親共にイギリス育ちだから、英語に支障は 無いけど。 あ、一応日本人ね。」


「魔術学校には通ってたの?」


「一応ね。ホグワーツで習うことは全部習ったよ、校長先生にも 大丈夫だっ て言われたし。」


「どうして一人称が"ボク"なの?」


「さあ?小さい頃からずっとそうなんだ…今更変えられないし ね。」


ありがちな質問に食事をしながら合間に答える。
そこからは周囲の皆も食事に専念しだしたらしく、質問はぱった りと途絶え た。
しかし今度は隣のシリウスが、じーっとこちらを見てくる。


「……ボクに何かついてる、シリウス?」


「いや…別に。普通に食事してるから、ちょっと驚いたんだよ。 普通、もう ちょっと反応があるだろ?」


どうやらシリウスには、料理が湧き出る皿の事で驚かないボクに 不満がある らしい。
さすがに何度も同じ光景を目にしているから、とはいえない。


「驚いたさ、少しは。ただ、ウチの両親がとんだ変わり者でね… これくらい のことで驚いてたら身が持たないんだよ。」


ふーん、と納得したのかしてないのかイマイチよくわからない 返事をして、シリウスは鶏肉にかじりついた。
ボクは一通りの食事を終えると、カップにコーヒーを注いだ。
いつもと違うこの豪華な食事の後はコーヒーに限る。
砂糖も入れずにぐいっと煽ると、正面のリーマスと目があった。


「コーヒー、何も入れないの?は。」


「甘いもの苦手なんだよ。」


「それじゃあ君と同じだね、パッドフット?」


にやっとジェームズが笑った。
それにシリウスがもふもふとよくわからない言語で答える。
バッドフットが誰の事か最初はわからなかったが、シリウスが返事 をしたと いう事はシリウスの事なのだろう。
それにしても、なんでそんなあだ名なのだろうか?


「気をつけろ、。お前の目の前のリーマスは、誰もが恐れ る甘党だ。 」


鶏肉を食べ終えたシリウスが、やけに真剣な顔でボクを見た。
するとリーマスが不満げにシリウスを見つめる。


「失礼だな、シリウス。ちょっと甘いものが好きなだけだろ?」


「何がちょっとだ、今だってポケットの中身は甘い菓子だらけだ ろうに。」


……そいえいば、既にデザートに突入したリーマスのさらに並 ぶのは手をつ ける人が少ない激甘スイーツだ。
それを嬉しそうにパクつくリーマス…かすかに鳥肌が立った。


「リーマス……糖分の過剰摂取は身体に毒だからな、糖尿にな らないように 気をつけろよ…?」


「大丈夫だよ、。さすがにそんなに食べてないって。」


「どうだか……けどまあ、虫歯が一本も無いのは奇跡だな。」


「シリウス!」


2人のじゃれ合いに、ジェームスがけたけたと笑っている。
ボクもジェームズと同じように笑うと、二人がびっくりしたよう にボクを見 た。
しかしそれも一瞬で、リーマスとシリウスも一緒になって笑い出 す。
笑いが収まる頃には、なんとなく胸がすっきりとしていた。
どうやら意識しないうちに緊張していたらしい…しかしそれも 吹き飛んだ。
それに、帽子を被っている間の考えも。
こんな面白いやつらが傍にいて、楽しい事が無いはずが無い。
ボクの好奇心をすばらしく満たしてくれるだろう。
前言撤回だ……友達となり、ホグワーツライフをエンジョイし てやる!!


(思い出すって言っても、きっかけはすぐ掴めないだろうし。 しばらくの間 は別に……いいよな。)


とりあえず、今を楽しもう。
そう、"今"を。

























「はじめまして。私はリリー・エバンズ。リリーでいいわ、 よろしくね? 」


「はじめまして、リリー。でいいよ。 突然な話で 部屋が狭くなっちゃって……なんか、申し訳ない。」


「いいのよ、別に!もともと少し広かったんだから。」


長い赤毛の女の子、リリーは、とても優しく微笑んだ。
女の子らしいその柔らかい微笑みは、かなり可愛らしい。
顔も綺麗だし、はきはきとした性格だし、きっと引く手数多 なんだろうな。
指し示された一番手前のベッドには、校長が用意してくれたら しい教科書な どの必要なものが置かれていた。
さすがに洋服まである事には驚いたが。


「ねえ、?大広間でもいろいろ聞かれたと思うけど…私も、 の 事知りたいわ。教えてくれる?」


「いいよ、もちろん!」


リリーの目がキラキラと輝いている…そりゃ、ノルウェー育ちの日本人 なんて普通は居ないだろうし。
や、正確に言えば日本人ではないけどさ。


「……ボクは一応日本人。…正確にはハーフなんだけどね。顔が父親に そっくりの日本人顔だから、いつもは"日本人だ"って言ってる。 で、その両親も魔法使いなんだけど…ホグワーツ出身じゃない。 英語圏のどこかだろうけどね。今はノル ウェーの森の中に住んでる。 スカンディナビア山脈の麓……氷河湖があって 、木がすごく高いんだ。」


「森の中!?それは…いろいろと大変じゃない?」


「まぁね…だけど、食べ物は豊富だし、水もおいしいし、空気も 綺麗だ。森 にはいろいろな動物がいてね……ボクにしか懐いてな い子達も多いよ。すご く可愛いんだ!」


そうだ……みんな元気だろうか?
父さんには無闇に脅かすなとは言っておいたけど…他の人たちがなぁ。
特に新しい人たちは、まだいろいろと鳴れないだろうし。
ま、その辺は熟練の人たちがどうにかしてくれるだろうけど…。


「ところで、どうしては自分の事"ボク"って言うの?」


「んー…小さい頃からそう呼んでたから。今更"ワタシ"だなんて 呼べないでしょ。」


小さく肩をすくめて笑った。
リリーもくすくすと微笑む。やっぱり可愛い。
けれどその表情が、少しだけ不安そうに揺れた。


「ねえ、?貴女、大広間ではポッターたちと一緒に居たわよね ……仲良くなったの?」


「え?あぁ、ジェームズたち?そうだね、結構気は合うかな。」


「………差し出がましいかもしれないけれど、あの人たちは… 止めておいたほうがいいわ。とてもタチの悪い悪戯ばかりするのよ。 スリザリンの男の子を目の敵にして、その子で遊んでいるの…私、 ツカサもそんな事すると思うと、胸が痛いわ。」


あぁ、やっぱり。
フレッドやジョージは、確かに悪戯ばかりするけれども、 本当に人を困らせるような事はあまりやらない。(フィルチは別として)
確かに校舎にいろいろ仕掛けたりはするけれども、それだって先生が杖 をちょっと振りさえすれば片付くような簡単なもの。
時には人が対象になったりもするけれども、理由もなくそんな事をす る人じゃない。
その辺は、ウィーズリーおばさんの子育ての結果だろう。


「大丈夫だよ、リリー。確かに一緒に悪戯する事もあるだろうけど、 ボクは理由もなく人をからかうのは嫌いだし、もし彼らがそういう事をす るならちゃんと止めるよ。」


「よかった!…それにしても、本当にポッターはどういう神経をしている のかしら!いっつもスネイプばかり狙って楽しんでるのよ!気に食わない事 があるのも事実だけど、あそこまでする事は………」


「…リリー?今、スネイプって言った?」


胃の中に冷水を流し込まれた気分だ…スネイプ?スネイプ教授?
パチンと、心の中でピースがはまった。
そういえば入学して初めての授業のとき、スネイプ先生はボクを見て 驚いた顔をしていた。
宿題を提出しに言ったときに、母の事を聞かれたりもした。
……母の事はほとんど喋らなかったけど、もしかしてスネイプ先生は、 この時代のボクを母親だと思ったのだろうか?
子供に親と同じ名前をつける事は、そう珍しい事ではない…。


?どうしたの?そんなに真剣な顔をして…。」


「そのスネイプって、スリザリン生なの?」


「ええ、そうよ。セブルス・スネイプ。同学年なの…入学仕立ての 頃からポッターとブラックとは仲が悪かったわ。」


やっぱり、スネイプ教授だ。
ジェームズたちが彼を苛めているのならそれは止めるべきだけど、 スネイプ先生と関わるのは得策じゃない…。
はぁ、と小さくため息をついた。


「そうだ、リリー。もしよければ、明日やる授業の所、去年まで どういう所を勉強してたのか、教えてもらってもいいかな?」


「あ、そうよね、授業進度が違ったら大変だわ…待ってて?」


ぱたぱたと自分のベッドまで教科書を取りに行くリリーの後姿を見つめた。
濃い赤毛がふわりと揺れるのをなんとなく目で追う。
明日から大丈夫かな……と、少し不安になった。



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えと、リーマス夢です。
リリーさんの台詞が口説いてるみたいだ。