7...Holiday.




今年度最初のホグズミード週末は、かなり込み合っていた。
ホグズミード行きを初めて許可された3年生が興奮で頬を赤くして口々に囁き合っている。
かく言うボクも、久しぶりのホグズミードに興奮していた。
双子と通い詰めたホグズミードとは、空気が違う。
だけどあの場所とこの場所は同じ。
意味もなくわくわくとして、隣のリーマスに微笑みかけた。


「どこから行く?」


は、何処に行きたい?ハニーデュークス…お菓子屋さんとか、ゾンコの悪戯専門店、三本の箒ではバタービールが飲める。」


「悪戯専門店!……リーマスは、それでも良い?」


「お姫様の仰せのままに」


肩をすくめて戯けてそう言うリーマスの胸に軽くパンチをして、ボク達は移動を開始した。
しかし、それが何とも困難だった。
とにかく混雑具合が激しい…動きに統率がないから、リーマスの姿を追いかけるのも一苦労である。
するとリーマスの腕が伸びてきて、ボクの手をしっかりと握りしめた。


「迷わないように。」


きょとんとしたボクに、リーマスは苦笑しながら言った。
ボクの手よりも大きくてしっかりしたリーマスの手。
どんなに顔が青白くて病弱そうでかなり細いリーマスも、やっぱり男なんだなと思う。
とりあえずボクはリーマスの手をしっかりと握り返して、人混みの中を何とか抜け出た。
ようやく目的のゾンコに到着したときには二人とも息が上がって、寒いくらいの風がやけに心地よく感じる。
微かに血色の良くなったリーマスの頬を見て、きっとボクの顔も赤いんだろうなと思った。


「ここがゾンコの悪戯専門店…シリウスやジェームズ御用達の店だよ。」


「それじゃ、ボクもすぐに常連客になるね。」


扉を開けると、店の中の雰囲気はボクの知っているものと少し違っていた。
まず、棚の配置が違う。
配色とかも違うし、何よりマスターが若い。
それにボクも知らない商品が多々存在していた。
思わず表情を輝かせる。


「ボク、あっちの方を見てくる!」


ずっと握ったままだったリーマスの手を離して、ボクは店の奥へと進んだ。
見慣れた商品から時代物の商品まで。
とにかくたくさんの悪戯製品が並んでいる。
そんなに悪質でなさそうな商品をかごに詰めて、ボクはさっさとレジへ持っていった。
買い物に時間を費やすという女の子特有の能力は、ボクには受け継がれていなかったらしい。
かごをレジの台の上に置くと、マスターは驚いた顔でボクを見た。


「君が買うのかい?」


「ええ。ボクが自分のために買います。」


ふっと、去年初めてホグズミードに来たときのことを思い出した。
双子と一緒にゾンコの店に入り、買い物をしたときも、このマスター(今よりも年は取っているが)は驚いた顔でボクを見たのだ。
今のマスターは、その時とまさに同じ顔である。
少しの間ボクの顔を見つめて、それから気を取り直したらしく集計を始めた。
懐に入れておいたダンブルドア校長から貰った袋を取り出し、中からお金を出す。
袋を持ってきょろきょろと周囲を見回すと、かなり驚いた顔のリーマスがそこにいた。


「もう終わったの?」


「うん。買い物に時間はかけない主義なんだ。」


そう言って、今度はボクからリーマスの手を取った。
驚くリーマスに、悪戯っぽく笑いかける。


「迷わないように…だろ?」


「……そうだね、はすぐに人混みに流されそうになるから。」


ぎゅっと手を握り、ゾンコの店から外に出る。
次に向かったのはハニーデュークスだ。
生き生きとした表情のリーマスとは対照的に、ボクは少しため息を付いた。
店の中で再び別れて、ボクは「異常な味」コーナーに向かった。
血の味がするぺろぺろキャンディーを見て、それから森に住む吸血鬼の歪んだ顔を思い出した。
あくまで血の「味がする」だけで、本物の血を好む吸血鬼には向かないらしい。
それから普通のお菓子が並ぶコーナーに移動して、ミントキャンディーを一袋買った。
それからリーマスの姿を探そうとするが、止める。
あのお菓子大好きのリーマスが、こんな短時間で買い物を終えるとは思えない。
きっと両手に一杯抱えてくるんだろうな…。


「これ、お願いします。」


レジの方でリーマスの声と、どさっと言う音が聞こえた。
それから奥さんの呆れたような笑い声も。
予想通り両手一杯にお菓子を買うらしいが、そんなに時間はかけないらしい。
大きな袋をいくつも持ったリーマスに、ボクは呆れたような視線を向けた。


「それだけで良いの?」


「ボクには十分だよ…次は何処に行く?」


「んー…それじゃあ、"三本の箒"にでも行こうか?」


こくりと頷いて、ボクはリーマスの手を見た。
両方の手にいくつも袋を持っている。
これじゃあ手を繋げないな…何となく残念に思うと、リーマスは慣れたようにそのたくさんの袋を片手で持った。
驚いてリーマスを見ると、少し照れたような顔で残りの手を差しだしてきた。
その手をしっかりと握り、店を出る。


「リーマス…その、大変じゃない?片手でそんなにたくさんの袋持つの……」


「慣れてるから平気だよ。去年もずっと、こうやってピーターの手を引っ張っていたからね。」


「でも大変そうだし…ボクも少し持とうか?」


「大丈夫だよ。」


リーマスの言葉に、ボクは大人しく引き下がった。
それにしてもボクはピーターと同じ扱いか…うーん、何とも言えない。
リーマスはあの大量のお菓子の袋を、本当に慣れたように扱っていた。
この人混みの中で一度もその袋を落とすことはなかったし、中身が零れることもなかったのだ。
さすがとしか言いようがない。
到着した三本の箒で、リーマスはやっぱり慣れたように一番奥のテーブル席に着いた。
机の下にどさっと荷物を置いて、ボクを見る。


、バタービールで良い?」


「うん。それじゃ、お金…」


「いいよ。今日は僕のおごり……の初ホグズミード記念のお祝いさ。」


カウンターの方へ行ってしまったリーマスに、なんだか申し訳ないように感じた。
ホグズミードは初めてじゃないんだ…。
痛む胸を押さえていると、案外早くリーマスは帰ってきた。
両手に一つずつ、バタービールのジョッキを持っている。
一つをボクの方に、もう一つを自分の前に置くと、軽く持ち上げた。
ボクも自分のジョッキを持ち上げ、笑ってリーマスのジョッキに軽くぶつける。
ジョッキ同士が当たる、澄んだ音が鳴った。


「………っはー!暖まるー!」


一応アルコール飲料であるバタービールは、身体を心から温めてくれる。
少しかじかんだ指先もすぐに暖まるだろう。
リーマスを見ると、何故かくすくすとボクを見て笑っていた。
きょとんと首を傾げると、やっぱり笑いながら理由を説明してくれた。
リーマスによると、ボクがバタービールを飲んだときの反応が原因らしい。
…一体何処に問題があると?


「ゴメン…シリウスと、同じ飲み方してたから、つい。」


「ぇえ!?シリウスと同じ飲み方!?……改善しなければ。」


そしてまたリーマスはぷっと噴き出す。
リーマスが笑う姿を見て、ボクは笑みが湧き起こってきた。
いつも笑顔を作りがちなリーマスが、こうして本当の笑顔を見せてくれると、とても嬉しい。
確かにいつもの笑顔も綺麗なんだけど、今リーマスが浮かべる笑顔は、その大人っぽい顔を少し幼くさせる笑み。
でもボクは、そう言う笑顔が好きだ。
シリウスとジェームズが、それにフレッドとジョージが悪戯が成功したときにも浮かべる笑顔。
心からの笑顔だと、見れば一目でわかるから。
ボクが微笑んでいると、笑いが収まったリーマスがボクを見ていた。


「嬉しそうだね、?」


「まぁね。……リーマスの、以外と可愛らしい笑顔が見れたからかな?」


そう言ってにやっと笑うと、リーマスが微かに頬を染める。
そんな表情も何となく見ていて嬉しくなった。
"心から"の表情…それが、僕が一番好きな物だから。
嘘にまみれた表情ばかり見て、それに怯えていたから…。


「ありがと、リーマス。」


「楽しんでもらえて嬉しいよ。……もしさえよかったら、またこういう風に出かけない?」


「喜んで!」


ボクは満面の笑みをリーマスに向けた。



←BACK      ↑TOP      →NEXT





リーマスとデート。…の割にはあっさり。