13...Pure Blood.




「本当に…って、マイヤー家の?」


「一応ね。確かに母はマイヤー家の一員だったけど、それはボクと何の関係もない。 ボクはだ、マイヤーじゃない。」


シリウスを引っ張りグリフィンドールの談話室に戻った は、待ちかまえていた ジェームズ達に捕まっていた。
そしてシリウスが彼らに先ほどの話をし、現在に至る。
驚きに呆然としている彼らとは違い、は仏頂面のまま低い声で応えた。
眉根を寄せ、迷惑そうな顔を隠しもしない。
しかしそれだけのことでジェームズ達が折れることもなく、 は迷惑そうな態度を保ったまま、ぽつぽつと質問には答えていた。


「第一、ボクはマイヤー家のことは何も知らない。母はボクが小さい頃に死んだ。父さ んはもちろんマイヤー家のことは全く知らない。マイヤー家とは一切交流が無かった よ   向こうは父さんのこと、毛嫌いしていたみたいだからね。」


「純血の家は何処もそうだ   家名を汚すような要因は片っ端から排除する 。」


シリウスが吐き捨てるように呟いた。
彼も純血ブラック家の一員として、思うところがあるのだろう。
シリウスの前で"ブラック家"のことはもはやタブーになっていたし、シリウス本人も 話したがろうとしていなかった。
うんざりとした顔のシリウスと仏頂面のの前で、しかしジェームズはいつもの ように明るく笑っている。
端から見ればかなり奇妙な集団だ。


「あれ   でも、スリザリン生に啖呵切ったんでしょ?」


「そうだね。でも、バレる訳無いだろう?それにボクがマイヤー家の血を引いている 純血だって事は事実だ。嘘は言ってないよ。」


「うわぁ……そんな状況で、よく落ち着いてられるね…」


小首を傾げるリーマスに、はどうでも良さそうに応えた。
それにピーターが感心したように呟く。
しかしはそれに何も応えず、ただ溜息を付いてソファの背にもたれ掛かった。
談話室の高い天井を見上げる。


「でも………驚いたね。とシリウスの仲が疑われるなんて。」


「ジェームズがリリーの尻を追っかけてなければ、多分ジェームズとの中も疑われてた と思うけど。」


にやにやと笑いながらシリウスを見つめるジェームズに、リーマスは溜息を付きながら 言った。
ジェームズももちろんモテるのだが、毎日のようにリリーを追いかけ回しているために すっかりそう言う噂の対象外になっている。
もちろん未だに告白してくる女子生徒もいるのだが、彼女たちも付き合って欲しいと 言うよりは、ただ想いを伝えたいだけのようだ。
リーマスが何とも言えない顔でシリウスを見やる。
シリウスはを一瞥し、嫌そうに顔をしかめた   結構失礼だ。


「付け加えるならリーマス、君との仲も疑われたよ  ちょっと前の話だけど 。」


相変わらず視線は天井に向けたまま、がぽつりと呟いた。
それに微妙な顔だったリーマスが固まり、シリウスが彼に向けてにやりと笑う。
リーマスもジェームズとシリウスほどではないがモテていた。
いつも優しそうな笑みを浮かべ、基本的に誰にでも親切。
ジェームズ達と行動するから目立っているし、顔立ちも整っている。
つまりリーマスも、シリウスと同様に噂のネタにされるには十分な人物であった。


「そんなの僕、知らないよ!」


「噂って言うのは、一番最後に張本人に回るって言うだろ?」


慌てたように言うリーマスに、にやにや顔のジェームズが言った。
シリウスからも同様の目線を送られ、リーマスは途方に暮れる。
ピーターも微かに頬を染めてリーマスを見上げていた。


「きちんと訂正しておいたよ。そしたら凄く喜んでたから、そのうちその子から告白 されるんじゃない?」


「…どうせ断るって知ってるんだから、その子にそう言ってくれればいいのに」


「いつリーマスの気が変わるか判らないだろ?ボクはリーマスの幸せの選択肢を 増やしているだけ。」


の言葉にリーマスは微かに複雑そうな顔をするが、天井を見上げている は気付かなかった。
しかしジェームズはそれに気付いたらしく、小さくにやりと笑う。
だがそれも、誰にも気付かれることはなかった。
相変わらずにやにやと笑うシリウスに、リーマスが重く溜息を付く。
それを聞いたがようやくソファから身を起こした。


「それにしてもシリウスとの仲を疑われるなんて、良い迷惑だよ    こんな恋人は絶対嫌だね。」


「はッ、俺だってお前みたいな可愛げのない女は願い下げだ。」


互いに貶しながらも、二人はにやりと笑ったまま。
その様はどう見ても恋人同士には見えない。
しかし二人がとても気の合う者同士だと言う事は周知の事実だった。
あまり他人には自分を出さないシリウスであるが、出会ってまだ二月も経っていない には遠慮がない。
まるで男友達のような二人は、毎日のように談話室で見ることが出来る。
だが、会話さえ耳に入れなければ恋人同士に見えなくもない。
も顔立ちは整っているし、二人が並ぶと絵になることも事実。
何よりも、恋をした者の思いこみは激しいものなのだ。


「でも、シリウスとって…二人とも綺麗だから……」


「うんうん、綺麗だよ、シリウス!」


ピーターの羨ましそうな声に、ジェームズがからからと笑った。
途端にシリウスの顔が険しくなるが、ジェームズは笑い止まない。
はそんなシリウスににっこりと微笑みかけた。


「本当に綺麗だねシリウス」


のとどめの一言の直後、 談話室にシリウスの罵声とジェームズの笑い声が響き渡った。




















ようやく10月31日、ハロウィンがやって来た。
朝からカボチャの甘い香りが寮の部屋にまで漂ってくる。
は起きてすぐに頭を抱えた。


「おはよう、……って、大丈夫?なんか調子悪そうだけど…?」


「おはよう、アリス…朝からこの甘い匂いが、ちょっと」


「そう言えば甘い物苦手だったわよね、。」


クスクスと笑いながら、リリーがの方に手を置いた。
先日の一件の後、すっかりツカサは同室の女の子達と仲良くなった。
今までの会話と話題が違うことに戸惑いつつも、何とかやっている。
むしろ何も知らないに教えることを、リリー達も楽しんでいる様子だった。


「毎年の事だけど…未だに慣れないよ……」


去年はグリフィンドール寮のゴーストであるニコラスの絶命日パーティーに顔を出した ほどだ。
もちろん、しっかりと食べ物の準備をして。
日頃会話のない他寮のゴーストと会話が出来る貴重な時間だし、何より興味深い。
そしてこれが一番の理由なのだが、が苦手とする甘い物と全く縁がない。
ゴースト用の刺激臭漂う食事にさえ近づかなければ、寒さになれている にはどうと言うこともなかった。
しかし今年はそれは無理な話だろう。
昨日の夜、リリー達と一緒に食事を摂ることを約束させられたばかりだからだ。


「まったく…この匂いを気にせずにいられるのは魔法薬学の授業だけだよ……」


「そりゃそうよ、あれだけ酷い匂いが教室中に漂えばね!」


マーリンは顔をしかめながらぶつぶつと呟いた。
魔法薬学が大の苦手である彼女にとって、授業に関わる全ての物は彼女の敵だ。
何もないところで躓く割に勉強は出来るアリスが手伝っているので、何とかなっている が。
そんなマーリンもレポートはいつも優秀なので、それが実技の失敗をカバーしていた 。
は小さく笑って、それから思い出したように着替え始める。
気付けば同室の3人は既に着替えを終えていた。
驚くほどのスピードで着替えを終え、鞄を持って3人の後ろ姿を追いかける。
そのまま大広間に向かうと、空中にはジャック・オ・ランタンがぷかぷかと浮いていた 。


「一日…今日一日だけの辛抱だ……」


はぶつぶつと呟きながら、不自然でないように手で鼻を押さえた。
出来る限り口で息をするよう心がける。
リリー達が手招く席へと足を運び、鞄を足下に置いてから大きく息を吐いた。
それにマーリンがクスクスと笑う。


「本当に、甘い物が苦手なんて人生損してるわよ、は。」


「いいよ別に   その分お菓子代が節約できる。」


むすっとした顔で応えるに、アリスとリリーも小さく噴き出した。
見た目が彼女たちよりも幼く見えるだけに、何とも似合わない台詞である。


「あれっ、?今日はそっちで食べるの?」


背後から聞こえた声に、は相変わらずむすっとした顔のままで振り返った。
ジェームズ達4人が手を振りながら近寄ってくる。
それを見たリリーが嫌そうに眉根を寄せた。
しかしジェームズは、リリーに見つめられたと言うだけで笑顔を輝かせている。
彼にとって視線に込められている感情はさして重要でないらしい。
ジェームズの後ろに目をやれば、同様に不機嫌そうなシリウスと、それとは対照 的に嬉しそうなリーマスとピーター。
特にリーマスはいつもより顔の血色がよく見える。
嬉しそうにニコニコと微笑むリーマスを視界に収め、は顔を引きつらせた。


「私達だって、とご飯を食べる権利はあるもの。」


「そうだねエバンス!今日も綺麗だよ!」


「ポッター、今すぐどこかに行って頂戴。貴方の顔は見たくないわ」


ジェームズに応えたのはアリスだったが、彼はそれを聞いていなかった。
リリーはジェームズの顔を見ることなく冷たくあしらうが、しかしジェームズは嬉しそ うにニコニコとしている。
はシリウスに視線を向けて、苦く笑った。
シリウスも同種の笑みを浮かべる   そしてシリウスはジェームズの腕を掴 んでその場から移動する。
引きずられながらもリリーに笑顔と賛辞の言葉を投げかけるが、リリーは徹底的に無視 をした。
いつものならリリーに一言言うのだが、今はそんな気にもなれない。
今のは自分のことだけで精一杯だった。


「とにかく、さっさと食べよう。可及的速やかにこの場から離れたい……」


いただきます、と早口に口の中で呟いてから、は甘くない物を皿に取りはじめる 。
それを気にリリー達も食事を開始した。
彼女たちは会話に花を咲かせているが、はひたすら食事に没頭している。
リリー達はそれを咎める出もなく、ただ苦笑しながらそれを見守っていた。
達が食事を初めて数分が経った頃、談話室の混雑はピークに達した。
それをみて、がちらっとジェームズ達が座る方に視線をやる。
それに気付いたシリウスがにやっと笑った。


バーンッ!!


突然、空中に浮かんでいたランタンの一部が爆発した。
食事をしていた全員がその音に手を止めて、天井を勢いよく見上げる。
爆発したランタンからは色とりどりの紙吹雪が噴き出すが、それは床やテーブルに落ち る直前に自然に消えた。
黙々と立ち上る白い煙が、天井に映し出されている青空に文字を描き出す。
驚く生徒達を後目に、煙は徐々に文字を完成させていった。
そして文字が完成した途端、白かった煙が様々な色に変化し出す。




HAPPY HALLOWEEN !!




次第に薄れていく文字を見上げながら、は満足げに微笑んだ。
ミルクの入ったゴブレットを小さく掲げる。


(悪戯の成功を祝して、乾杯!)


騒然とする大広間を眺めながら、はミルクを一気に飲み干す。
ハロウィンはまだ始まったばかりだった。



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題名の「純血」の話は初めのちょっとしかありませんけどね!
長く続けてしまうと逆に後が面白くなくなるので今回は此処で打ち切り。
これから先、ちょっとずつさんの事を書いていきたいです。