14...Halloween. ハロウィン、または万聖節。 子供が公然と大人からお菓子をもらえる日である。 合い言葉は「Trick or Treat!(お菓子か悪戯か)」 つまり、10月31日は悪戯仕掛け人のために存在していると言っても過言ではない。 「Trick or Treat!」 ジェームズの声と、そして爆音が廊下に響いた。 音は大きくても被害は少ない…ただの癇癪玉のような物だ。 はそんな光景を遠くから眺めながら、小さく溜息を付いた。 お菓子か悪戯か、と言いながら、お菓子を与える隙がない。 必然的に悪戯しか残っていないのである。 ジェームズの台詞は全く持って意味がない 蜘蛛の子を散らすようにさっさと逃げていくジェームズの後ろ姿を見つめ、隣に並んで いるリリーに意識を向けた。 「…………………………」 リリーは今、頭の中でジェームズに対する暴言を吐いているに違いない。 無表情のままじっとジェームズの引き起こした騒動を眺めるリリー。 傍目から見れば非常に落ち着いた表情に見えるところがなおさら恐ろしい。 リリーは激情型だと言えるだろう…つまり、溜め込んだ分だけ激しく爆発する。 はリリーの後ろに並ぶマーリンとアリスにこっそりと目をやった。 二人も困ったような、呆れたような顔をしてリリーを見つめている。 「リリー、君がお菓子を上げたら止めるかもしれないよ。」 「あんな奴らにあげる物なんて何もないわ!」 ぴしゃりと言ったリリーは、かなり激しくを睨みつけた。 それから肩を怒らせてずんずんと廊下を進み始める。 慌ててその背中を追いかけながら、はアリス達と一緒に小さく溜息を付いたの だった。 「明日から11月か……」 クリスマスまではきっと、あっと言う間に時間が過ぎるだろう。 毎年クリスマス休暇には実家に帰っていただが、今回はそうも行かない。 初めてホグワーツで年末を迎えることになる。 しかし毎年家でやっていたような風習は行われることはないだろう。 はぼんやりと思考を飛ばしながら、灰色の重たい空を見上げていた。 大イカが住まう湖の傍にある大きな木。 この時代に飛ばされる前から、この場所はのお気に入りだった。 木にもたれ掛かって息を吐くと、意外と疲れていたことを知る。 途端に感じ始めた疲労感と無理矢理無視して、鞄の中から変身術の本を取りだした。 内容は"動物もどき"に関するものである。 高度な術であるが、しかしは面白くなさそうに本を眺めていた。 あまり真剣に読んではいない。 「今更理論なんて読んでもなー…判るけど判らない……」 ぶつぶつと呟きながら、は適当にページを捲る。 しばらくページを進めると、"人狼と動物もどきの違い"という項目を見つけた。 何となく目を通そうとしただったが、それはパーンッ!という花火のような 音に阻まれる。 一度目の後すぐに二度目の音が聞こえる。 比較的音源は近い場所だったので、は重い腰を持ち上げた。 その眉は不機嫌そうにきゅっと寄せられている。 「ちょっとはゆっくりさせてくれ……」 一日中リリー達と行動したために、は精神的にかなり疲れていた。 もちろん彼女たちといることが負担なのではなく、悪戯を繰り返すジェームズに静かに 怒っていたリリーの対処が問題だったのだ。 不機嫌さを隠さず、は片手に杖を握りしめて音のする方に近づいていく。 大方、音源はジェームズ達だろう。 問題はそれが単に音を出しているだけか、それとも巻き込まれている人間がいるか否か 。 花火の音に掻き消されてハッキリとは聞こえないが、誰かの怒鳴り声が聞こえた。 は嫌な予感を感じ、歩くスピードを速めた。 近づくたびに鮮明になる声は、シリウスとセブルス少年の言い争い。 「貴様が 「うるせえ 「シレンシオ」 突如、今まで煩かった怒鳴り声が消えた。 しかしそれでも花火の音は消えることはない。 は空中を飛び回る花火をじっと目で追った。 「レダクト」 の呪文で空中を飛び回っていた花火は粉々に粉砕された。 そうしてようやく周囲に静けさが戻る。 声が出ないことに気付いてジェスチャーを繰り返すシリウスを、 は冷たく睨み つけた。 「君たち、煩い。此処は学校であり公共の場だ 「僕たちは周囲の平和のために行動を起こしていたんだけど?」 反論しようとしても声が出ないシリウスの変わりに、ジェームズが悪びれた様子もなく 戯けて見せた。 はいっそう眉根を寄せ、はしゃいでいたらしいピーターと我関せずを貫いていた リーマスをちらりと見る。 しかしすぐさまその二人からは視線を外し、今度はセブルス少年に移した。 声が出ないせいで杖を振っても呪文は出ない。 半ばやけになっている様子のそれを見て、は深く溜息を付いた。 「エクスペリアームズ」 シリウス、ジェームズ、そしてセブルス少年の杖がツカサの手元に飛んできた。 それを一つも落とすことなくキャッチしてから、シリウスとセブルス少年に向けて 杖を振る。 途端、シリウスが大音量で怒鳴り始めた。 「!!一体何しやがんだ手前ェ!?」 「貴様は入ってくるな、!!これは僕とこいつらの問題だ!!」 ほぼ同時にセブルス少年も怒鳴り声を上げた。 そしてその台詞の内容にジェームズ達が眉をひそめた。 「、君はスネイプとファーストネームで呼び合うような仲なのかい?」 「ボクの友好関係に口出ししないで欲しいな、ジェームズ。」 「あいつは 「個人の性格は寮で量る物じゃないよ、シリウス。ボクが誰と友達だって、それはボク の勝手じゃない?」 片眉を上げて、はシリウスを冷たく見つめた。 は出会った頃から、彼らとフレッド達とは根本的に違うと感じていた。 少なくともフレッド達はこういったことはしない。 誰かがターゲットになるとしても、それにはある程度の理由があるし、彼らだって きちんと手加減している。 少なくとも、多勢に無勢を体現したような状況を生み出すようなことはない。 しかし、ジェームズ達は違った。 「周囲を驚かせたり楽しませたりする悪戯は好きだよ。だけどこれは悪戯じゃない、 ただの虐めじゃないか。ボクは好きじゃない。」 「やってるのは俺達だ、お前じゃない!がここからいなくなれば見ることもない だろ、談話室に帰れよ!!」 「見過ごせないよ は静かに怒っていた。 それはリリーのように後に爆発するための"溜め"ではない。 怒れば怒るほど冷静に、そして冷めていく。 それがの、ほとんど誰も知らない"本気の"怒り方だった。 「誰がなんと言おうと、ボクはセブルスのことを友達だと思っている。友達に手を差し 出すのは当然のことだよ。」 肩で荒く息をするセブルス少年には近寄った。 腰と背中の間あたりを思い切り平手で叩くと、彼はに視線を向ける。 その瞳は怒りや憤りでぎらぎらと光っていた。 まるで猛禽類の目のようだと、は心の中で呟く。 「戻ろう。このパーティーは此処でお開きだ。二次会はそっちで勝手にやってくれ。 」 「!?」 素っ頓狂な声を上げるジェームズに、は冷たい視線を送った。 それを真正面から受け止めたジェームズが僅かに肩を震わせる。 は完全な無表情であった。 そして少なくともそれは、14歳の魔女が浮かべる表情ではなかった。 「ジェームズ、シリウス、二人の杖はリリーに預けておくよ。後で回収して。」 「な 「ピーター、リーマス。ボクから二人の杖を取り返そうだなんて思わないでよ は4人の顔を見なかった。 視線は真っ直ぐ、彼らとは逆方向の城に向いている。 目を伏せて、は小さく深呼吸をした。 思っていたよりも随分と興奮していたようだ。 「前の学校の校長に言われたことがある もしかすると"血"のせいなのかも知れない。 純血の割に、の魔力はさして大きいものではない。 一般の生徒よりは大きいが、それより上はゴロゴロと転がっている。 しかし怒りによって本来持っているパワーが出るのかも知れない。 西洋と東洋の純血結婚により濃くなった血が混ざったは、その能力がかなり 未知数であった。 互いに打ち消し合っているかも知れないし、増幅しているかも知れない。 純血結婚の段階で決して混ざることのない西洋と東洋の血。 それらが引き起こす現象を、はまだ何も知らなかった。 「ちょっとした呪文ですら、何を引き起こすかいまいちよく判らない。それが判ったら ボクに魔法を使わせないでくれ。このまま、行かせて欲しい。」 返事は、無い。 しかしは、セブルス少年の腕を掴んで歩き出した。 抵抗するセブルス少年だが、その何も映さない表情が彼の動きを緩慢にする。 スリザリン生であり、こういった出来事には慣れているセブルスでさえ、恐怖を 感じずにはいられなかった。 見知った東洋系の、幼さの残る顔だ。 それなのにどんな大人よりも冷たく、空虚な顔をしている。 「………………………」 誰も何も言葉を発しないまま、達はジェームズ達の前から歩き去っていった。 |