18...Earrings.




      校長先生」


「入りなさい、待っておったよ」


が校長室の前にたどり着くのと同時に校長室を守るガーゴイル像がぴょんと飛び 退き、ダンブルドア校長が穏やかな笑みを浮かべてを見つめた。
は招かれるままに螺旋階段に足をかけ、部屋にたどり着くまでの僅かな時間を 青白い顔でじっと過ごした。
校長室にたどり着きその部屋の中に入ると、不死鳥の フォークスがのすぐ側に置かれた椅子 の背もたれに留まり、の顔を覗き込むようにして小さく鳴いた。
それには僅かに表情を緩め、ダンブルドア校長が用意した椅子に慎重に腰掛けた。


「先生……先生は見えますか?ボクの耳にピアスが」


「もちろん、見える。そして    それが、君自身には見えないだろうという事 も判っておるつもりじゃ」


「…………ボクは、このピアスが今回のことに少なからず関わっていると思っています」


は緊張気味の顔で、しかしダンブルドアを真正面から見つめながらそういった。
ダンブルドアは顎髭を撫でながら静かにの話に耳を傾ける。
パチリ、と暖炉の薪が爆ぜる音が響いた。


「母の…ピアスなんです。写真に写っていました   間違いありません、母が…… 死んだときに、身に付けていたピアスです」


「お母上は    


「死にました。ボクが、6歳の時に」


ダンブルドアの言葉を遮るようには素早く答えた。
そしてそっと、ダンブルドアから視線を外す。
俯いて握りしめた拳をじっと見つめながら、は大きく息を吸い込んだ。


「母の遺品は全て、遺体と一緒に墓に埋めました。このピアスも例外ではありません……この 目で、埋められる瞬間を見ました」


「……お母上はマイヤー家の出身じゃったと聞いておる。マイヤー家は非常に魔力に満ちた 一族じゃ…それ故に、所持品が魔力により変質する事も考えられるじゃろう」


ドイツの純血、マイヤー家。
の母の実家であり、イギリス純血一族の血を一滴も入れていない唯一の純血一族 だ。
そして純血一族の中でも屈指の実力を持つ魔法使いや魔女を多く排出している名家。
当然、その実力は誰もが認めるトップクラス。
だが幼い頃…6歳の時に母を亡くしたは、実の母がどれほどのレベルの魔女だったのかを 知らない。
父親も滅多に母親のことは口にしない…それは既に暗黙の了解となっていた。
だからこそはダンブルドアの言葉に対して特に反応を示さなかった。


「不思議な魔力をそのピアスから感じるのじゃ…もちろん、悪いものではない」


「母のピアスがボクに害をなさないんですか?………案外、ここに来たのも母の呪いかもしれ ませんよ」


吐き出すようにがそう言うと、ダンブルドアは微かに悲しげな表情を浮かべた。
しかしの視線は己の拳から動いていない。
ダンブルドアはそんなの様子を暫く見つめ、それから小さくため息をついた。


「今のところ、わしにはそのピアスがに害をなしているとは思えん」


「…………それならば、これはいったい何なんですか?どうして今更……」


「それはわしにも判らん…じゃが、一つ言えることがある。出来るだけ早く、無くした記憶を 取り戻すのじゃ。すべてはそこに隠されている…わしにも想像できぬような事が」


記憶を取り戻す、それが必要だと言うことはにも十分判っていた。
けれどもどうやってそれを取り戻すのかが判らない。
なるべく多くのことに触れれば、その中のどれかが刺激になって記憶も戻るだろうと、そう 考えては行動してきた。
しかし記憶が戻る気配もなく、それどころか新たな厄介事が次から次へと降りかかって来る ばかり。
母親のピアスなんて言う、これこそ記憶から消し去りたい物まで現れてしまった。


「……判り、ました。出来る限りのことはやってみます」


「焦りは禁物じゃ。目の前にあることを見落とさぬように、気を付けるのじゃぞ」


顔を上げたの前には、穏やかに微笑むダンブルドア。
それに僅かに微笑み返し、は校長室を後にした。
相変わらずの心の中には晴れない霧が漂い続けていた。

































談話室に戻ると、そこには難しい顔つきの悪戯仕掛け人が勢揃いしていた。
リーマスが真っ先にに近寄り、心配そうにを見つめる。
は無理矢理笑みを浮かべてリーマスから目をそらした。
それにリーマスが微かに眉根を寄せるが、は気付かぬままにその脇を通り過ぎる。
しかし今度はその目の前にシリウスが立ちふさがった。


「エバンズから聞いた    


「ああ、例の写真?あんな物は放って置けばそのうち大人しく   


!」


シリウスが苛立ったようにの肩を掴んだ。
そのまま無理矢理顔を上げさせ、視線を合わせる。
シリウスのまっすぐな視線にはたじろぐが、視線を外すことが出来ない。
彼の灰色の瞳はまっすぐにを射抜いている。


「ピアスがどうとか言ってた…俺たちにも言えないことか?」


「……言える、言えないの問題じゃない。ボクにも何がなんだか判ってないんだ……」


「でも、心当たりくらいはあるんだろ?」


ジェームズの穏やかな声が聞こえる。
は思わず顔をしかめた   こういう場面で穏やかなジェームズは、 本気で切れている時と同じくらい厄介だと言うことは既に学習済みだ。
顔を固定するシリウスの手を押しのけて、はジェームズを見た。
想像通りの穏やかな顔だ    そしてこれもまた想像通りに、目だけは笑っていな い。
はため息をついて手近なソファに座った。
それを「全て話す」という態度だと理解した4人は、の正面にあるソファに並んで座る。


(話せと言われて話せる訳はないんだけどな)


は心の中でそう呟いて、ひっそりとため息をついた。
それから正面に座る4人の顔を順番に眺めて、嘘を付くことも出来ないと改めて実感する。
今のジェームズに小細工は通用しないだろう。
は頭のなかで言葉を並べながら、そっと口を開いた。




「まず第一に     ボクは記憶喪失だ」




その一言から、はゆっくりと話を始めた。



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爺語が難しい…(ぇ)
そして短い