吏部を目指せ!


振 り ま か れ る 火 の 粉

もくもくと秀麗ちゃんのご飯を食べながら俺は主上たちの会話を小耳に挟んでいた。
上位及第者と言うだけで目が付けられるのに、それに加えて女性である秀麗ちゃんに最年少及第年齢を引き下げた影月君だ。
命の危険すら伴う彼らの現状に俺は思わず目を伏せる。
俺も上位及第していれば嫌がらせの対象だったのだろうか   


(……さすがに無いか)


画商は碧家と堂々交流している貴重な商家だ。
貴族の血統のない全くの庶民でありながら彩八家に媚びへつらうことなく堂々と商売を行っている。
その貴重さと、碧家の作品を最も多く扱っているという事実は、家督を継ぐはずもない次男の俺すら養護するのに十分な理由となるのだ。
今だって時々ご機嫌伺いの下吏から貢ぎ物が届いたりする。強いて言うなら翰林院とかが多い…まぁ芸術各局をとりまとめる部署だから仕方がないだろうが。
今から新人に芸術のイロハをたたき込むよりも、既に下地のある俺みたいなのを引っ張って来る方が楽だろうし。


「え、えぇと…さんもお茶、如何ですか…?」


「んー?あ、もらうもらう」


冷や汗を浮かべて現実逃避をしながらお茶を注ぐ影月君のつむじを見やり、俺は小さくため息をついた。
ほんのり香ってくるお茶のにおいを胸一杯に吸い込んで、煎れたての温かいお茶をちびりちびりと飲みながら仕出し弁当をつまむ。
相変わらず不味くはないが美味くもない。手製の弁当でも持ってくるかな。
俺は時折注がれる視線に気付かない振りをしながらもくもくと食べる手を休めない。
何か言いたげに俺を見る主上との話はさっき終わったし、俺が思いつく話題は今この場で話すべきじゃないし。そもそも話せないこともあるし。


「そうだ……、そなたも少し気を付けた方が良い」


「っぐム」


「きゃあっ!?ちょっと、さん大丈夫っ!?」


突然の指名に驚いてご飯を盛大に喉に詰まらせた。
影月君にお茶を差し出され秀麗ちゃんに背中を叩かれ、年下の庇護対象にしっかり迷惑を掛けながら詰まったご飯をお茶で流す。
しばらく苦しさに咳き込みながら、涙目で主上を見上げた。
気を付ける!?俺が!?何で!?


「十七位及第なのに秀麗達と同じだけの書類をこなしていることに、他の進士たちが気付き始めている。『まさか手を抜いてたんじゃないだろうな、舐めやがって』と勘ぐる者達も少数だが確かにいるみたいだぞ」


「がフ」


「ああぁぁさんー!?」


喉を潤すために飲んでいたお茶が気管に入った。
再び盛大に咽せこみながら、突き刺さる主上の視線に俺は心の中で反論をした。
だって目立たないように手を抜いたってのに元も子もなくなってるし!?
それに時々秀麗ちゃん達の騒動に巻き込まれそうになるし!?秀麗ちゃんと影月君には知られないようにしてるけど知ってるだろ主上!?
目立ってどうするんだよ俺!!どーするよ!!


「っぐ、げほ…さ、最終手段は変装……」


「……手を抜いたことは否定しないのだな」


「目立ってたまるか!俺は吏部に行くんだ…っ!」


主上の目が一瞬鋭くなったが、次の瞬間には何故だか嫌そうな顔をしていた。
何せ悪鬼巣窟と名高い吏部のことだから、そういう悪名高い官吏の顔でも思い浮かべているんだろうと予想する。
吏部侍郎が側近だから吏部の人とも関わり合うことが多いだろうし。


…そなた、趣味が悪…」


「うるっさい元韜晦男め!」


思わずそう返した時の主上の表情は忘れられないだろう。
もう二度とこんな言葉遣いを主上に向けるものかと心に誓ったくらいだ。
確かに王というのは誰よりも位が高いから、間に壁を感じるのかもしれない。
だけど…だからといって罵られて喜ばないでくれ…!
まだ二十になったばかりの王の行く末が少しだけ心配になったのだった…。

君にもひどい目にあってもらおう企画スタート。まぁ画商の名前があるので
さして被害はないでしょうが、一応攻撃者は用意しなくては。
近頃さらに君が最強キャラになりそうなので…方向修正修正!