「お邪魔しまーっす」
「あっ、!来てくれて有り難う、今準備してるからもうちょっと待っててね!」
「判ったー…て、ちゃんと手土産ありますし片付けは手伝いますから」
秀麗ちゃんの言葉に返事をしたら、静蘭さんからじとーっていう視線が送られた。
そんなこと言われても俺は自分で菜なんかしたこともないし、庖人と遜色ない腕の秀麗ちゃんの所に行ったところで足手纏いになるだけだ。
観察好きが高じて自己分析も存分にやっているから、俺だってちゃんと弁えた行動をしてるんですよ!
多分静蘭さんの場合は全部判った上での嫌味なんだろうけど。
「ん?初めて見る顔だなー…ダレ?」
「初めまして、です。全商連にも色々お世話になってるんで噂はかねがね耳にしてます、元茶州州牧の浪燕青殿」
「…ってアレか、画商の!……あ、そういや名前聞いたことあるかも。人間観察好きの次男坊?」
問いかけににっこりと微笑みながら頷いた。
まさか知られているとは思っていなかったため驚きもあるけど、光栄に思う気持ちの方が強い。
都合良く人間観察好きだと知られたところで、俺は遠慮無く目の前の燕青さんの顔をじっくりと見つめた。
髭が好きで良く伸ばしてるって噂だったけど、今日は残念なことに綺麗に剃られている。
左頬の十字傷、精悍な顔立ち、子どもみたいにキラキラしてるけどどっしりとした安定感。不安定だった茶州を支え上げた州牧なだけはある。なんか、凄い。
「も国試受験したわけ?」
「そうです。まぐれみたいな十七位及第でした」
「ちょっと、!手抜き受験しておいてまぐれって何よ、まぐれって!」
「……へ?手抜き?」
話を聞いていたらしい秀麗ちゃんがわざわざ庖廚から顔を出して訂正してくれた。
ちょっと、話がややこしくなるのに!
しかも当初の予定では三十位代及第だったからまぐれは正しいんだよ!
俺の若干困った顔とぷりぷりしてる秀麗ちゃんの顔を見比べながら、燕青さんはきょとんと首を傾げた。
しっかりした体つきの精悍な人なのに、こういう動きが妙に似合うのは何故だろう。
「ってば、目立ちたくないから好成績で及第したくなかったんですって!」
「俺が行きたい職場的に、目立ったら駄目なんだって!それに何にせよ本気出したって状元榜眼探花には絶対食い込めなかったから、秀麗ちゃん安心して!」
「ダレもそんなこと気にしちゃ無いわよ!!」
ぎゃーぎゃー言い合う俺たちを見て燕青さんがにかっと笑った。
仲良いんだな、と言われ、俺はそれに微笑みを返す。
「人間観察好き」と言うところまで知っている燕青さんなら、碧州で俺がどんな風に過ごしていたかは聞き知っているはずだ。
俺の知っている相手の情報と、相手が許容している情報との差。
それのせいで俺は余り人と深く付き合うこともなかったし、そもそも相手の方から俺から離れていくというか、距離を置くというか。
知っているはずのないことまで知られていればそれは確かに気味が悪いんだろうけど、俺はそれに気付くまでに暫く掛かってしまった。
「聞いてたよりもすっげー元気そう。良かったな、」
その言葉に俺は強く頷いた。
やっべー燕青さんめっちゃいい人だ!感動だ!
うん、でも秀麗ちゃんとの仲をおもしろ可笑しく詮索してくるのはナシにしません?
お互い冗談だって判ってても静蘭さんの凍るような視線で背筋が寒いんですって!
春城は燕青が大好きです(断言)
次は官位を授かる場面になるかと。