幽暗に閉ざされて目を開けた瞬間飛び込んできたのは、目を閉じていたとき以上の暗闇だった。その暗闇は何も映さない、本当の闇だった。自分の手すら見えない。 ゴウゴウと風が音を立てて吹いているのが判る。 風に乗って流れてくるのは砂煙の匂いと、そして濃密な 硝煙のような香りも微かに漂ってくる…と考えたところで、私ははたと思考を止めた。 (血?硝煙?……なんで冷静に判断してるの?) 自分の思考に愕然とした。 その瞬間、ザワリと揺れるような音と一緒に声のようなものが聞こえてくる。 それはまるでノイズか何かにかき乱されているかのような、不明瞭な音だった。 ハッキリと聞こえてくるのは断片的な単語や、意味を為さない文字ばかり。 「いったい何な…っ!?」 視界が働かないからなのか、その他の感覚が鋭くなっているような気がする。 その感覚が捉えたのは徐々に変質していく空気の匂い。 そして薄れていく血や硝煙の物騒な匂いと、何かに縛られているかのような圧迫感。 ノイズ混じりの声は相変わらず意味のわからない言葉の羅列だったが、その中に少しずつ意味 のある言葉が浮かび始めていた。 ≪…の名……が…じる…≫ ≪おねがい≫ ≪誓…により……えて…≫ ≪おねがいだ≫ 聞こえてくる言葉は、強い願いだった。 強く美しく、眩しいくらい真っ直ぐで折れることのない願い。 きゅ、と圧迫感が強くなる。そして胸の中を締め付けるような切ない痛みも。 その言葉を耳にすれば耳にするほど、空気はどんどん入れ替わっていく。 私を包み込むのは今までとは全く異なる、でもどことなく懐かしさを感じるような空気の匂い ばかりになっていた。 その匂いに関する想いが浮かび上がりそうになるが、何故か浮かび上がったと思った次の瞬間 には萎んで消えてしまっている。 ただ、懐かしいという言葉ばかりが胸の中に切なさを生む。 「なん、なの……」 こんな感覚は知らない。こんな現象は知らない。 こんな暗闇も、こんな声も、何もかも知らない。 それなのに不安にもならず、むしろ安堵すら覚えている私自身も知らない。 一体、コレは…? 「っわ!?」 そんな思考を遮るように、突然足下から風が音を立てた。 一瞬風が吹き付けてきているのかと思ったが、逆だ。吸い込まれている! 私の身体もその流れに逆らうことなく、あっさりと流され始めてしまった。 どれだけ足掻いても強い風の流れは嘲笑うかのように私の身体を押し流し続ける。 流されていく先は暗闇の終わりだったが、そこに広がる蒼に私は目眩がした。 あれは……空? 「ちょ、嘘 そして私の身体はあっけなく空に放り出された。 気付いたら増えていた早速の予定外話。プロットはどこに行った。 幽暗とは暗闇のこと。 |