閉ざされた瞳物語のセオリーと言うべきか、野党達はあっさりと私を庇った集団に倒されてしまった。私は呆然と彼らの戦いぶりを見ながら、あまりにも非現実的すぎる光景に意識を逃避させては思考の渦に溺れる、というのを繰り返すばかりだった。 しかし否定出来ない物的証拠ばかりが眼前に示される中、私は諦めた。 此処は確かにサモンナイトの舞台であるリィンバウムなのだろう。 さてそれにしても夢にまで見るほど私はこのゲームをやり込んではいなかったのだが。 「えっと…大丈夫だった?」 「ええ、まぁ…」 「あの…その、ごめんなさい!実は貴女のこと、私たち間違えて召喚しちゃって…」 ぺこぺこと私に頭を下げるのは主人公その一のトリスとその二のマグナだ。 何で二人とも揃っているのか。護衛獣も二人(…単位は人で良いのだろうか)揃っているし、いったいなんて夢だと心の中でため息を吐く。 私の方をおどおどしながら見つめるレシィと、稼働音を発しながらセンサで見つめてくるレオルド。 本来ならば揃い得ない二人の主人公と護衛獣達が見事に並んでいる。 私はそんな光景に対する反応に窮しながら、ちらりと彼らの背後に視線を向けた。 そこには腕を組んで仁王立ちしている兄弟子・ネスティと冒険者のフォルテとケイナ。 冒険者の二人は事情を飲み込めていないらしいので、私は現状を一番理解して居るであろうネスティに困惑の眼差しを向けた。 「……マグナ、トリス。いきなりそんなことを言っても彼女には通じないだろう?順序立てて説明すべきだ 「どこの世界…?」 少なくともここではない世界だと口にしようとして、私は正面のネスティに目を向けた。 そして瞬間、私がそう言った場合のネスティによる問い質しが全自動でシュミレートされてしまった。 地球には違う世界という概念はないのになんで一言で違う世界だと言い切ることが出来るか、それを説明するためにはゲームのことから何から説明しなくてはならなくなる。 そこまで考えて私の脳は一つの決断をした。そんなの面倒すぎる。 どう考えたところで現実ではない今の状況で、なんでそんな面倒な思いをしなければならないんだろうか。 かといって怪しまれて捨て置かれるのもそれはそれで困るので、ご都合主義にあぐらをかくために私は感心したような納得したような表情で頷いて見せた。 「そうか…世界が違うって考えれば、奇妙奇天烈な所々の現象は解決しちゃうのか」 「………、……なんだって?」 「え、あ、いや…だって私、今まで生きてきてさっきの魔法みたいなのとか彼らみたいなのって見たこと無いから」 彼ら、と言いながらレシィとレオルドに視線をやった。 それから改めて困ったような顔をして、少しだけ不安そうに周囲を見渡す。 もしかしたら私は部活選択を誤ってたかも知れない、なんて心の中で笑いながらも、表情は知らない場所に放り込まれて戸惑っている少女の風体だ。 「君はシルターンの出身じゃないのか?」 「しるたーん?」 「えぇっ!?私もお兄ちゃんも鬼属性は使えないってば!!」 「それくらい知っているさ!だがメイトルパにもロレイラルにも人間は存在しないんだ。二つの世界への同時干渉でシルターンへの扉が開いてしまった可能性も考慮する必要はある…が、」 どうやら確認の必要はないみたいだ、とネスティは疲れたように肩をすくめて見せた。 やっぱり帰ったら演劇部の様子でも覗きに行ってみるべきだろうか、これは。 楽観的に内心笑っているところに、不意に風が吹いて土煙が舞った。 慌てて目を覆ったから目には入らなかったが、飛んできた砂利が足にぱしぱしと当たる。加えて全身に被った土煙の不快感は風が止んでもそのままで、私は思わず眉をひそめた。 と、そこでふと我に返る。 現実でないが故に現実味を帯びていないはずの現状が、少しずつ現実味を増していく。 (………私は、今どこに居るんだ?) これは現実ではなかったはずなのに、何でこんなに現実みたいな感覚があるの? まさかこれが現実であるはずなんかないのに、なんで現実との共通項ばかりがこんなにも現れてきてしまっているの? 突然、冷水を浴びせられたかのように背筋が凍った。 私にとっての「現実」は、一体何処にあるんだろうか? 考え始めた途端、目の前の光景は途端にその表情を変えた。 それはとても空虚な色をした、全てを突き放すような光景だった。 違う、此処は「現実」なんかじゃない…こんな場所は「現実」なんかじゃない! 私は思わず目を閉じた。目の前の「キャラクター」を見ないように、そして現実味を帯びてきた「空想の世界」を見ないように。 瞳を閉ざし、現実から目を背ける。 ようやくサモキャラとちゃんとした交流です。 |