自分の世界、他人の世界「…いえ、皆さんのお名前からすると・と言った方が良いのかもしれないですね」野盗達を倒した後には、当然のようにお互いの事情説明がやってきた。 迫る夕闇を背にしながら、コトコト煮込まれる具材を確認しながらの事情聴取はどうも気が抜けてしまうのだけれども。 料理の指揮を執っているのはやはり野宿に慣れたフォルテで、それを家庭派レシィを手伝う形でこのパーティーの食事情は成り立っているらしかった。 そんなことをのんびり考える余裕があるほど、事情聴取は緩かった。 (だからこそ余計なことまで考えてしまうと言う弊害もあったが。) 「世界が複数存在するという考えは夢物語の範疇ですので、正確な私の世界の名前は知りません。種族は人間、性別は女、年齢は18で」 「「じゅうはちぃっ!?」」 「……18です。職業は高校生…学舎で勉学を納める身でした。とは言いましても義務として定められている学習内容にちょっと付け加える程度の学校ですから、大したことはないのですけれど」 「君の世界では勉学が義務化されているのか?」 「正確には私の国で、と言うべきでしょうか。多くの独立した国家を内包している世界ですので、国によって情勢は異なりますが、私の国ではある一定の年齢までは就学義務があり、そこで国語や算術などを教わりますね。識字率もほぼ十割です」 基本的には自分で自分のことを語り、時折掛けられる声に答えると言った具合に話は進んでいった。 時には感心され、時には驚かれながら語るのは何となく居心地が悪い。(別に実年齢相応に見られないことには慣れているから、それは気にしてない、断じて) しかし問題なのは、投げかけられる疑問が世界に対するもので、私個人に対する警戒の念や素性に関することには一切触れてこないところ。 いくらミスで召喚したとはいえ、その対象が厄介でないとは限らない。 通常の召喚でさえ召喚獣の暴走により命を落とす召喚師は居るだろうに、こんなイレギュラーな出来事で招かれた私をのほほんと受け入れるのはどうなのか。 「すごいなー…世界が違うだけでこんなに変わるんだ!授業なんかよりよっぽど面白いね、お兄ちゃん?」 「ホントだよな!」 「君たちは馬鹿か!?これは単なる雑談ではなく、彼女の世界を知るために必要な情報の受け渡しであって、召喚主である君たちが誰よりも知っていなければならないことなんだぞ!?」 知るよりも先に疑うことが先なんじゃなかろうかと思うわけですが、その辺りどうなんでしょう。心の中で呟きつつも、疑われればそれはそれで困っるなぁとも思う。 その辺りの物事の矛盾を感じながらも、結局利己的に物事を考えれば常に矛盾しか生まないのだと胸中で苦く笑った。 その間も目の前で行われるこの兄弟弟子のやりとりは既に何度だろうか。 どうやら双子であるらしい調律者二人が安易に人を信じすぎる傾向にあることは嫌と言うほど知っているけれど、それを諫めるべき兄弟子すらこの体たらくとはどういう事なんだ。 「あの…自分については、他に特に言うべき事が思いつかないのですけれど……」 「そうね、自己紹介はこれくらいにして……次は、お互いの現状と今度を確認かしら?」 ケイナは私に柔らかく微笑みかけながら、トリスとマグナとネスティを宥めるようにそう声を掛けた。 お互いの現状、と言うところで私は小さく息を飲み込む。 そうだ、この物語は国同士の、更には世界同士の戦争にまで発展するんだ。 その記憶と目の前のストーリーとの符合が、更に目の前の世界を確かにしていく。 どれだけこれが現実ではないと否定しようとも、世界はこれが現実なのだと次から次へと語りかけ、怒鳴り散らし、私の思いを踏みにじっていく。 私は細く息を吐いた。 (仮に、目の前のこの現状が現実だとしよう) 完全に受け入れることは出来ない。けれども、完全に否定することも出来なくなってしまった。私は中途半端な気持ちのまま、それでも無様に世界にしがみつく。 アイツが存在する世界が私にとっての現実だから。だから、此処は違う。 私は何が何でも自分の世界に戻らなければならない。 アイツが、私の唯一の家族が、私だけが唯一の家族なアイツが存在する場所が私の世界。 その確固たる意志があるというのに、どうして目の前で着実に進んでいく波乱に流されるままに身を投じなければならないのだろう?そんな必要、私にはない。 だからここで、さようなら。 大悪魔とか世界の崩壊とか、とつぜん目の前に差し出されても普通は受け入れたくない と思うわけです。 そんなわけで、原作に関わりたくない一心では奮闘開始。 |