止まらないストーリー

細道を登り切りアグラ爺さんに遭遇した後にレルム村にたどり着いた。
けれども私の頭の中には相変わらず先ほど浮かび上がった疑問ばかりがぐるぐると 渦巻いていた。
体力の変化。
今も目の前でトリスは額の汗を拭っているというのに、私は疲れすらほとんど感じる こともなく、息を乱すこともなく、心拍数をほんの少し上昇させただけの状態で この場に立っている。
しかしさすがにレルム村に辿り着いたことで私は思考をうち切った。

(此処で彼らともお別れね)

もとより一緒に行動するつもりなんて無かった。
一般人であることをハッキリ自覚している私が、何が哀しくて自ら危険に巻き込まれ なければならないのか。
リィンバウムを救うなんて言う高尚なことはそれを運命付けられた彼らがやればいい。
この世界をゲームとして知っている私が、イレギュラーな私が、そんなことに関わって いいはずもないし、私の本心としても関わりたくなんか無い。
取り敢えず改めて自分の中でそれを明確化してから、眼下に広がる人々の行列に 小さく溜息を吐いた。

「ひょっとして、ここにいる人たちって…」

「み~~~~~んな聖女の奇跡を頼ろうとしてる人たちなの?」

ケイナとトリスが驚きに声を上げた。
他の面々は特に口を開くことはなかったが、その表情が驚きを物語っている。
もちろん私も驚いてはいるが前知識として知っていたし、自分自身には関係ない話だと 理性が割り切っているのか特に感慨を覚えることもない。
此処で賑わう人々が全て今晩には死に絶えるのだと判っていても、他人事だと知覚して いるからかやはり何も感じない。
そんな自分の冷徹さに心の中で自嘲気味に嗤いながら、取り敢えず高台からの移動を 始めたマグナ達の後を着いて道を下っていった。

「うーん、これじゃ日が暮れたって、私たちに順番は回ってきそうにないわね…」

「いや、それ以前に何処が列の最後尾かもわからないぞ。」

ネスティの言葉に一行は表情を暗くする…が、フォルテは相変わらず呑気そうな顔で 列を眺めていた。
そしてにやりと笑う。
悪戯を思いついた少年のようなその笑みに、私は事はストーリー通りに進むのだなと 心の中で溜息を吐く。
そして案の定、フォルテが列に割り込もうとずかずかと列に向かっていってしまった。
マグナとトリスがフォルテを諫めようとするが間に合わず、フォルテは列に入り込もうと して…そして、怒号が聞こえた。

「そこの野郎っ!何勝手に列に割り込んでやがるんだ!!」

一行が一斉に声のした方を振り返る。
するとずかずかと大股でこちらに歩み寄ってくる人物。言うまでもなくリューグだ。
歩くたびに収まりの悪い前髪がひょこひょこ動いているのが見えるが、今はそんなものを 笑いながら指摘できるような空気ではない。
お得意の三白眼で今当に割り込む寸前、と言う格好のフォルテを睨む。
フォルテは誤魔化すように笑いながら身体の向きを変えて割り込む格好を辞めた。
しかしリューグは苛立った様子で私たち一行をじろりと睨め付ける。

「なんのためにわざわざ列を作って並んでるとおもってんだよ」

「あー、わりぃわりぃ。どこが列の最後尾だかわかんなくてさァ」

「はっ、どうだか…最初ッからどさくさで列に入り込むつもりだったんだろうが? 手前ェ等みたいな連中がいやがるから俺達の苦労が絶えねえんだっ!さあ、とっとと この村から出ていきやがれ!!」

フォルテの軽薄な態度に一気にリューグの声のトーンが上がった。
畳みかけるようにそう怒鳴り、真っ直ぐ森の方を指さす。
そのリューグの一方的な物言いにケイナやネスティが眉根を寄せ、リューグの方を 睨むようにして真っ直ぐ見据える。
明らかに話し合いだけで収まるはずもない方向に変質していった空気に、私は 小さく溜息を吐いた。
何が悲しくてこんな子どもみたいな言い合いを聞かなくてはならないんだろうか。
すると私の溜息を聞いたのかリューグの視線が今度は私に移動した。
並の女子どもなら恐怖するだろう怒りに染まった視線を私は呆れ混じりに受け止める。
するとそのことにリューグは更に苛立ちを増させたらしく、更に彼の眉間の皺が深く なるのを私はしっかり見てしまった。

……触らぬ神に祟りなしとは言うけれど、世の中には触らなくても祟ってくる神がいる みたいです。
ほんと、リューグとか明らかなメインキャラクターにはこれ以上関わりたくないんです けども!
私はもう一度、今度はちゃんと心の中で溜息を吐いた。


   *    



まだ続くリューグとの初顔合わせ。
取り敢えずまだ触覚とは言わずに収まりの悪い前髪、にしてみました。
触覚発言はもう少し仲良くなってからのお楽しみで!笑