生きるために捨てるものアメルが立ち去った後、私は当然のようにマグナとトリスに引っ張られて 村に戻ることとなってしまった。ネスティと合流してアグラバイン宅に案内されてしまえば夕食になり、そして あっと言う間に夜が更けていく。 日暮れなんてとうの昔に追い抜かしてしまっていた。 (結局…危険に晒されながら逃げるしかないわけだ) まだ騒動は起こっていない。 今の状態で村から抜け出ようとしている所を見られれば、きっと印象に残って しまうだろう。 私はこの村に来てから手に入れた眼鏡を鞄の中から取りだし、かけた。 度の入っていない眼鏡は、私にとっては境界線だ。 レンズ越しの視界は何処か乖離したような感覚をもたらす。 そして心情までも乖離させていくのだ。 (ここから出ていくのは事が起こってから…村の中が混乱で満ちあふれたら) そうなれば私が逃げる姿は何の違和感もなくなる。 逃げまどう人に隠れ、人々を盾にしながら逃げ、生き延びる。 それに、見捨てていく命の灯火が消える瞬間を私は見なければならない気が していた。 己のエゴでしかないことは判っている。 それでも、見捨てるということは私自身が殺すも同義なのだ。 せめて見届けるという形で自分の中に戒めを持たなければならない。 自分だけの平穏を望むため、物語を進めるため、私は全てを知っていながらにして それを見捨てていく。 (私の罪は重いのだと…私自身が焼き付けなきゃいけない) きっと武器も手に入れることが出来るだろう。 兵士が捨てていったものだとしても、確実に竹刀よりは役に立つはずだ。 竹刀を抜いたとしても鉄の武器を持った相手には全くの無意味。 あるいは武器屋から拝借していくというのも手かも知れないが…それは黒の旅団も、 そして身を守りたい村人や冒険者達も考えそうだ。 そんなところで見知った顔に合ってしまえば何もかもがお終いになってしまう。 (だけど…) 脳裏に一人の笑顔がよぎった。 私は唇をかみしめて、声を出さずに名前を呼ぶ。 私の唯一の家族。たった一人しか残っていない家族。 これ以上アイツの家族を減らしちゃいけない。 父も母も消えてしまった。アイツにとっての家族は私しか残っていない。 だから私は、生きなきゃいけない。 アイツのため、そしてもちろん私自身のために。 (何を見捨てても汚かろうと、私は生き延びる…!) 短いですが一区切り。ようやく第二主人公の影が見えてきましたねー。 次は戦闘です。 |