世界に一人きりの家族
ベッドの上で動けない私と、こちらを何処か暖かい眼差しで見てくるルヴァイド。状況から述べれば私は捕虜で、ルヴァイドは総指揮官で…どう考えたところでこんな暖かい空気を共有するような関係ではない。 訝しげな視線を感じているはずなのに、ルヴァイドはそれを気にした様子もなかった。 意味が、判らない。 「に聞いていたとおりの反応だな…」 だがその感情が続いたのも、ルヴァイドのこの台詞を聞くまでのことだった。 「………?」 。、。 ルヴァイドの口にしたと私の思うが同じであるかどうかなんて判らない。けど心の何処かが同じだと、がここにいるのだと伝えていた。 私に残された最後の家族。唯一無二の家族。 リィンバウムに召喚されてきて、を日本に一人きりで取り残してしまったことを悔やんで、恨んで、ただひたすらに焦燥に駆られていたけれど。 そのが……私だけでなく、もリィンバウムに来ている? 「家族なのだろう?……がこの駐屯地に召喚されてまだ数日だが…それでも今まで見たこと無い表情ばかりを浮かべてお前のことを見つめていた。本当に、大切に思っているのだと見ているこちらが感じる程に……」 ルヴァイドの言葉がじわじわと染み渡ってくる。 に会いたい。この目での姿を確認しないことには、本当の意味で安心することは出来ない。 それには召喚されたとルヴァイドが言っていた。 私の時はトリスとマグナが居たから扱いは召喚獣のものとは思えないほど、本当に人間と同じようにして扱われた。 けれど場所が変われば…召喚主が変われば召喚獣の扱いなんていくらでも変わってしまう。 ルヴァイドならば大丈夫かも知れないが、彼の知らないところで陽がどんな扱いを受けているとも知れない…そんなことを考え始めると、不安が心の中で膨らんでいく。 「意識がなかったから時間感覚もないだろうが…ここに運び込まれてから丸1日経っている。その間も、が甲斐甲斐しく世話をしていたのだ……というよりも、俺達を余り近寄らせたがらなかったというのが正確な表現かもしれぬが」 ルヴァイドがくつくつと喉の奥で笑う。 その瞳はさっきまでよりも柔らかな色を浮かべていて、やはりルヴァイド自身はに対して真っ当に接してくれているのだろうと少し心が軽くなった。 すると突然ばさり!と天幕が音を立てて開かれた。 私は思わず身体を震わせて、視線をルヴァイドからそちらに動かした。 そして、懐かしい姿にそのまま視線を奪われる。 「ちょっ、ルヴァイド!?何余計なこと言ってんのー!?」 「本当のことではないか…それに、今意識が戻ったところだ。あまり騒ぐな」 がこちらを見て、どこかほっとしたような顔をした。 それは父さんと母さんが居なくなってから暫くのあいだ、家に帰ってくるたびにが浮かべていたものと同じ表情で、少しだけ心が痛む。 けれどもそれを上回る感情が私の中に溢れだした。 やっと会えた。会うことが出来た。 言葉にならない感情が私の心を埋め尽くしていく。 「良かった…目、覚まさないから…心配した。でももリィンバウムに来てたなんてびっくりって言うか、やっぱこれも運命だったりするんじゃない?」 少し冗談っぽく笑うは、特にいつもと変わった様子もなかった。 もう13年は同じ家で暮らしていたのだ、がいつもと違う様子であれば判る。その判別は簡単に出来るくらい、ずっと一緒にいたのだから。 けれどここはリィンバウムで、敵の本拠地で……私は捕虜だ。 ならばもう少し慎重になって置いた方がよいだろう。 はやる気持ちを懸命に閉じこめ、私がその決意を胸にを見上げると、その雰囲気の違いをくみ取ったらしくは苦笑しながら側にあった椅子を引き寄せてベッドの脇に座った。 「……うちの、非常時の鍵の場所は?」 「郵便ポストの中で、上の方にフックで引っかけられてる」 「私の部活は」 「剣道部ー」 問を繰り返す私を、ルヴァイドがじっと見つめてくる。 きっと訝しく思われるかも知れないけど、今はそれよりもがであることの証明が何より大事なことだった。 その私の必死さに、は真っ直ぐ私を見ながら全部の問に答えてくれる。 「Could you understand what I'm saying?」 「え、ちょ、………い、Yes! Yes, yes, I can understand! でも俺英語嫌い!!」 「………知ってるわよ、そんなこと」 の慌てぶりに、私も思わず口元に笑みを浮かべた。 そして英語を話したところで、ふと気になって私は視線をルヴァイドの方に向ける。 今の言葉は、ルヴァイドに……リィンバウムの住人に通じるのだろうか? 「……今の言語、理解出来ました?」 「いや…耳慣れぬ言葉だな。お前達の世界の言葉か?」 「ええ。私たちの世界は多種多様な言語があるので…でも今使っている言語は、あなた方にもきちんと理解出来るものとして聞こえるんですね」 作中でレナードさんは普通にマグナやトリス達と会話をしていた。 つまり英語もリィンバウムの言語として自動的に翻訳されていたようだったが、どうやら母語として使うかどうかで翻訳されるか否かに影響が出るのかもしれない。 取り敢えず一つ重要な情報を手に入れた、かな。 小さく息を付くと、が私の頭をぽんぽんと撫でてきた。 の突然の行動に私はびっくりしてを見つめる。と、はこちらを見てにっこりと微笑んだ。 「…、おかえり」 「………ただいま」 頭の上のの手が暖かくて、温かくて、胸の辺りがふわりと軽くなる。 それまでの焦りも葛藤も苦しみも寂しさも、全部流れて消えていく。 気を緩めると涙腺まで緩んでしまいそうな空気に、私は抵抗するようにの手を振り払った。 「……ところで、アンタその格好はどうにかならないの?黒い服とか致命的に似合わないんだから……何でそんな無謀な選択しちゃったのよ、考えなさいよ」 「あっれー!?感動の再会は何処に消えたの!?だいたいココ黒の旅団なんて名前してるんだから服も黒いのばっかなんだもん!俺のせいじゃないもん!うわーん!!」 がルヴァイドに飛びつき、その背中に隠れる。 「が苛める!」などと年甲斐もないことしか言わないが、ルヴァイドも何処か楽しげにを見下ろすだけで特に文句などは何も言わない。 少しほっとして、私もルヴァイドと同じように笑みを浮かべる。 リィンバウムに来て、ここまで穏やかな気持ちになったのは初めてだった。 ちょいちょい出てきた「あいつ」こと君の登場です。 これで男女とも主人公がそろい踏みましたーぱふぱふ! しっかし初登場にして出しゃばりすぎててゴメンナサイ…!笑 |