召喚と誓約+α
「お前たちの関係は、から簡単に聞いている。同じ世界から召喚された家族……だったな」 「血はつながってないけどねー」 ルヴァイドの少し重い声に、がへらっとした声で注釈を入れた。 そう、私とは確かに家族ではあるけれども、それは血の繋がりのある血族という意味の家族ではない。 同じ時間を共有し、同じ父と母に育てられ、同じように幼少期を過ごしこの歳まで育った。血はつながっていなくとも十分に家族だということが出来るだけの時間を過ごした。 だから私もも互いのことを家族として扱っているし、今更他人だなんだなどと考えたりなどはしない。そういう「家族」だ。 「ガキの頃に父さんに拾われてからはすっかり家だしな…そもそも拾われる前のこと覚えてないから他人がどうのって感覚もないし。まー今じゃ二人きりの家族だけどもさー」 はへらへらした笑みを浮かべながらばっさばっさと個人情報をばらまいていく。まあ本人が気にしないならいいのだけれども。 いつの間にか天幕の中に入ってきていたイオスがの発言にちょいちょい驚いたように目を見開いているのを見るのが面白い。 そして同じくいつの間にか天幕にいるゼルフィルドはせっせと情報をメモリに保存しているようだ。 そこまで無言で聞いていたルヴァイドがふと、私とを見比べた。きっと「二人」というところで察したのだろう。 「そ、俺とで二人ね。父さんと母さんはどっか消えちゃったし未だに消息不明だしー」 「……だからこっちに召喚されて、半分になった家族がまた半分になるのかって絶望したけど…唯一の家族と再開できてよかったわ」 「…!!お、俺ものことずっと待ってたよ、オンリーマイファミリー!!!」 「でもいまちょっと感動を返して欲しいくらいには後悔してるのよね」 「がーんっ!?」 相変わらずオーバーアクションのが、先ほどと同じように「がいじめる!」などとルヴァイドに擦り寄っていく。 しかしルヴァイドはを相手にするわけではなく、何かを思い出したように喉の奥で笑みを噛み殺していた。 そして面白がるような目でをちらりと見る。 「そうだな、確かにも召喚されたばかりの頃はかなり錯乱していた上に暴れまわっていった」 「そういえば……そうだ、しかも召喚されたばかりの頃唯一口にしていた言葉は『家族の所に返せ』、でしたね。確かに納得できます」 「え、ちょ、ルヴァイド!?イオスまで!?突然俺のマル秘情報暴露とかちょっと俺聞いてないよどういう展開!?」 ルヴァイドとイオスの言葉に本気で焦ったようにあわあわと慌てふためくの顔がじわじわと赤くなっていく。 本気で照れると頬よりも首やら耳やらが赤くなるは、今もほんのり染まる頬とは対照的に耳が真っ赤だ。 つまりさっきのは全て事実だったと自身が認めているということで、それはそれで私までなんだか照れくさくなってくる。 そしてそれと同時にがしっかりと私を家族と思っていてくれた、同じようにお互いの心配をしていたと知ることが出来てどことなく嬉しさも感じた。 の気持ちを軽んじているわけではないけれども、お互いわざわざ面と向かって喋ったりしないような奥底の気持ちを知ることが出来るというのはなかなか貴重なことだ。 もちろん、にそんなことを伝えるつもりは毛頭ないのだけれども。 「が暴れまわって居たときは大変だった…旅団員を以てしても数人がかりでないと抑えられなかったからな」 しかし、そう呟いたルヴァイドの声からは、もう先ほどの面白がる色は抜け落ちていた。 そこで座ってしゃべっているのは黒の旅団の指揮をとるルヴァイドで、を拾って面白おかしくしゃべっているルヴァイドではなかった。 すっ、と目を細めて私とを見る。 その空気を感じて流石にも真面目な面持ちでルヴァイドの視線を受け止めていた。 こういう会話にも思考にもメリハリがあるのはとても好ましい。全てを疑わないトリスたちの所に居たから余計にそう感じる。 「……ソレについては、私自身も疑問に思っていることです」 ルヴァイドの言いたいことは分かっている、私たちの身元…というよりも、能力やらポテンシャルを明確にさせたいのだろう。 おそらくは私達が育ってきた世界について「この世界よりも格段に平和」だと告げているだろう。私もマグナたちにそのようなことは伝えた。 現実に私たちは戦争に遭遇したことも、召喚されるまで直接事件事故に関わることもなく、命の危機も感じること無く過ごしてきた。 それはこのリィンバウムで言えば十分すぎるほどの平和だろう。 「私達の世界……というよりも、私達の暮らす国が平和であったことは事実です。そしてその国で平和に生きていたことも事実。けれどもこの世界に召喚されてから、全てが変化しました」 明るかった空気が冷ややかに淀んでいくのを感じながら、それでも私は口元が自嘲に歪んでいくのを止められなかった。 すべての変化は召喚されてからなのだと、召喚というきっかけがすべての変化を生んだのだと、私は思っているから。 だからその召喚がはびこるこの世界も、その恩恵を受けて生きる人々も、恨もうと思えばなんだって恨めるくらいには召喚というものに対して嫌悪感を抱きつつあった。 召喚という操作によって私自身の肉体やら精神やらまで操作されている可能性があるのだ、嫌悪せずにはいられない。 「………」 が私の言葉を黙って聞いている。 自身がどうだったのかは私は知らないけれども、先ほどのルヴァイドの言い分とこれまで見てきたの身体能力を比較すると、そこに大きな差があるのは明らかだ。 つまりにも何かしら召喚の前後で変化が起こっているのだろう。 私はまっすぐにルヴァイドを見つめた。 「この世界の知識は正確ではないのでかなり推測が混ざりますが…私は自分のこの変化について、召喚の際に誓約と一緒に何かしらの要素が付加されたのではないかと考えています」 私たちはこうして同じ言語を用いているかのように会話することができているが、実際にはお互いにお互いの言葉をしゃべっていて、それが翻訳されているだけなのだろう。 日本人にとって母語でない英語がルヴァイドたちに通じなかったのは、召喚獣が本来持つ言語のみが翻訳対象だからではないか。 召喚したはいいものの意思疎通がかなわなければそれは召喚術の利点を全く活かすことができなくなる。 そして同じように、戦闘目的で召喚した召喚獣が戦闘面で優位に立てるような付加要素が与えられた、と考えても不自然ではないのではないか。 つまりある目的を満たすために召喚された召喚獣たちは、その目的に沿うような形で誓約以外にも何かを与えられているのではないか。 「そう考えれば身体能力の向上、武器の使用、戦場への恐怖感の薄れなんかは、納得はできなくとも理解は出来る気がします。つまり召喚獣は召喚師にいいように作り替えられているってことですよね」 「俺も喚ばれた状況は戦闘訓練だったから、戦闘面で何かがプラスされたってのはわかるかも…?まあ本当に何を意図して喚んだかは本当の所わからないけどね、召喚師死んでるし」 私達の言葉に、ルヴァイドは小さく「そうか」と頷くだけだった。 しかしルヴァイドを取り巻く雰囲気から硬さが抜けていることから、取り敢えず今の意見は受け入れてもらえたらしい。 それが実際にどうなのかを議論するのは私の役目でもルヴァイドの役目でもなく、召喚術を理解した人間だったり全ての権力を握る存在だったりするのだろう。 専門でない者どうしで集まってこれ以上議論した所で正解も何も出るはずもないのだから仕方が無い。 「判った、そう伝えておこう……しかし随分と冷静に見つめているのだな」 「自分自身のことを自分自身がわからない状況、っていうのが私にとっては一番の恐怖でしたので」 その恐怖はもちろん今も続いているのだけれども。 ルヴァイドは私の言葉に僅かに労るような視線を向けて、それからゆっくりと座っていた小さな椅子から腰を持ち上げる。 イオスに目配せをしたところを見ると今日のところはこれで終わりになるのだろうか。 「捕虜として扱うつもりはないが、重要参考人として聞きたいことは他にもいくつかある。しかし……詳しくは明日以降にしよう。 まだ目を覚ましたばかりで本調子でもないだろうし、唯一無二の再開を喜ぶにももう少し時間が欲しいだろう?」 「の今夜の見廻り番は免除するが、夜までにはテントに戻っているんだぞ。確認に行くからな」 「やった!いやでもわざわざ確認に来なくても戻るって、ここ寝る場所ないし別に一緒に眠る関係でもないし?」 が両手で大きくガッツポーズを決め、イオスから若干冷ややかな視線を受けていた。 私はじっとりとした目でを見つめ、そして本当に天幕から去っていくルヴァイドたちの後ろ姿を無言で見送る。 そしてすっかり姿も気配も遠のいたときにがくるっとこちらを振り向いて私に笑いかけた。 「………そんで? When will we leave here?(いつここから出ていく?)」 私はそんなをみつめて、ゆっくりと口元だけで笑った。 そしてはっきりと口にする。 「Tonight(今夜よ)」 再開してすぐに脱出計画です。 女主の一人称なので名前変換数回…対して男主は変換箇所だらけ…。 |